燃えろ体育祭/後編−10


断続的に氷にぶつかってきていた黒影の攻撃が止まる。突然の現象に驚いているだけではないだろう。明らかに、氷越しに見える外が明るくなった。


「…第一段階成功、すぐ次いくぞ…」


灯水が生み出したこの氷の壁を伝ってフィールドの外に一瞬で形成されたのは、巨大な氷の鏡だ。両側で角度を変えているのは、両方が反射した太陽光を互いに反射しあうためだ。
太陽の位置から最も光を反射するだろう角度に微細に調整して、最大限、太陽光を反射、増幅させているのである。これで黒影は怯む。その一瞬の隙でよかった。


『氷のシェルターから見えないのに生み出したのは、絶妙に太陽を反射する氷の鏡!常闇の黒影の動きが鈍った!…ん?さらになんか…ありゃ?』


プレゼントマイクの実況から、灯水が始めたことがきちんと進んでいることが分かる。これは嬉しい誤算だった。見えない中での作業は骨が折れる。氷の中で真上に向かって右手を突き出していると、会場がざわついた。


『フィールドの4隅にあるでけぇ燭台の炎が、なんか中央上空に集まっていくーー!!』


先ほど上鳴が言っていたように、灯水は炎は出せない。だが、炎は操れる。USJでの戦いで学んだように、バーナー式の延々とガスが供給され続ける炎を操れば大きな力となる。
そう、試合開始と終わりに点火と消火を行えるという自動性のある燭台のように。
あれがバーナーによる自動的な燭台であることは誰の目にも明らかだろう。

さすがに炎の大きさは分からないため、灯水はようやく外へと出た。氷のシェルターの裏に開けて置いた穴から出て見上げると、直径8メートルほどの火球ができていた。火球が放つ煌々とした明かりは、両側の鏡に反射してさらに強まっている。鏡の表面が火球の輻射熱で溶けて濡れているのも光を強めていた。


『ここで轟兄、シェルターから登場!弟のバカみてぇに強い氷と炎の個性とは違い、精密なコントロールによって常闇を追い詰める!!』


火球に向けて右手を上げたまま見ると、火球の直下にいた常闇は後ずさる。その横にいた黒影は、圧倒的な光源を前に全方位から光に照らされて常闇の後ろに隠れていた。


「くそ、黒影、鏡を壊せ!」

「うう、あいよ!」


黒影は嫌そうにしながら鏡に向かうが、そちらに手を向けて火球を近づけると「ひえぇ!」と叫んで常闇のところに逃げた。


「それならば直接…!」


常闇はついに火球の下からこちらに走ってくる。黒影を使うかは分からないが、近接戦に持ち込むつもりだ。
灯水は左手を上げて火球から3本の火の輪を生み出すと、自身の周りに配置した。一番下が灯水を中心に直径3メートル、真ん中が5メートル、上が2メートルだ。火球は燭台から供給される炎によって直径が10メートルを超しており、少し高度を上げて灯水と常闇の間の上空に浮かべた。

熱と光が降り注ぎ、灯水の周りに黒影も常闇も触れられない炎の輪が浮かぶ、まさに絶対防御。右手は真上にかざして火球を維持し、左手は斜め下に向けて火の輪を維持する。
さすがに暑いので体に氷の塊をいくつか生やすと、汗が少し収まった。


『轟兄、完全にラスボス感を醸しているーーー!!かっけーけどRPGなら絶望だな!!』

「く、ヒーローには見えんぞ轟兄!」

「敵がこれでビビってくれたら万々歳じゃない?」

「…はあ、これが味方であることが唯一の救いだな。まいった、降参だ」


常闇がそう言うと、ミッドナイトは鞭をバッと上げる。正直あともう少し粘られたら危なかった。はったりではないが、余裕そうにしていて良かった。氷を纏ったのは、汗を隠して余裕感を演出するためである。


「常闇君、降参!轟君兄、3回戦進出!!」

『轟兄勝利ーーー!!!処刑用BGMが流れてそうな生徒ランキング1位だーーー!!』

「失礼すぎでしょ…」


灯水はため息をつくと、火球と燭台との間の炎を断ち切って供給を止め、自身の周りの輪も散らす。そして、火球を一気に上空の高いところ、スタジアムのさらに上まで飛ばした。観客の目もつられて上に上がる。
一度ぐ、と左手を握ると、それを開く。同時に、火球は破裂し上空に炎がパッと散った。すぐに燃焼するものをなくして炎は気体に溶けていくが、その一瞬の輝きが花火のようだった。


『おお、粋なことすんじゃねぇか!』

「己への祝砲か」

「そういうんじゃないってば…どんだけエンターテイナーだし…」


観客は大喜びしてくれていたが、ただの後処理だ。概ね溶けている氷の残骸を処理すべくフィールドに足を進めながら、黒影に声をかける。


「ごめんね、黒影」

「うう、許してやるよ!」

目を垂れさせる黒影に可愛いところあるな、と思いながら、灯水はシェルターの解凍を始めた。


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