燃えろ体育祭/後編−11


一度控室付近の廊下に戻った灯水は、たまらずベンチに座り込む。さすがに氷と炎の精緻なコントロールは疲れる。個性もかなり大がかりな使い方をした。蒸気を出さず、氷結もあまり大きくはなかったが、炎のコントロールに熱を使った。そのため、どことなく体温が高い。喉がカラカラになっているため、先ほど自動販売機で買ったスポーツドリンクはすぐに飲み干してしまった。

今は2回戦最後の試合、切島vs爆豪だ。激しい実況が聞こえてくる。まるでボクシングのようだった。

恐らくここで勝つのは爆豪。となると、この次の準決勝での飯田vs焦凍のあとは灯水と爆豪の戦いとなる。負けていいとは微塵も思わない。


「…でも、次でラストかなぁ…」


個性の反動が大きすぎる。それに、これはリカバリーガールに治してもらえることじゃない。ただの疲労と同様だからだ。爆豪との戦いに勝てるからどうかは分からないが、そこでの戦闘で灯水は個性の使用上限に達するだろう。だがそれまでは全力でやるつもりであるし、そもそも全力でやらねば爆豪相手に立ち回るのは不可能である。
そこへ、爆豪勝利の実況が聞こえてきた。予想通りなので特に驚きはない。


「…飯田君と焦凍の試合だけ、近くで見ておくか」


個性の疲労に対してできることはもうしたし、体力の疲労は先ほどほとんど動かなかったため気にならない。それならどこにいても同じなので、どうせなら試合を見ることにした。焦凍がどうするのか気になったからだ。

階段を上がって一番下の観客席に出ると、ちょうど飯田と焦凍の戦いが始まったところだった。
スタートの掛け声とともに焦凍が氷結を放つ。それを飛び越えて飯田が現れると、いきなり左足からとてつもないジェットが噴き出した。その推進力はとても灯水の蒸気や爆豪の爆破で出せるものではなく、まるで飛行機のように飛ぶような動きで焦凍に迫る。
あれは個性の使い方をアレンジしたものだろう。肩足だけではあるが、あの速さによって反応できなくして一瞬で文字通り「蹴り」をつける。

飯田の重い蹴りが、焦凍の頭付近を直撃した。思わず「うっ、」と声を出してしまう。痛いどころの騒ぎではない。
飯田はそのまま焦凍の服を掴むと走り出した。場外へ投げ飛ばすつもりか。しかし、突然飯田の動きは止まった。よく見ると、焦凍の氷が飯田のマフラーを詰まらせていたのだ。その隙に飯田の体自体も凍らせれば焦凍の勝ちだ。

炎は結局使わなかった。左手を見る焦凍から察するに、やはりまだ迷っているようだ。当然だ、どれだけ長いこと焦凍の行動原理が左と炎司の否定だったか。それを考えれば、簡単に迷いを捨てられるわけがない。

灯水は踵を返して廊下に戻る。この次は、灯水の戦いだ。


***


『さぁ準決勝2戦目はこの2人!混ざったタイプの強個性、轟兄!容赦ない爆破男爆豪!!ラスボスどうしの戦いになるか!レディー!!』


灯水が感じた中で最高の熱気と興奮が会場に満ちている。いよいよ準決勝、人々の注目度もピークに達しつつあるのだ。灯水が勝ったら兄弟対決、爆豪が勝てばA組トップ対決とどう転んでも見どころ満載になることが予想されるからだろう。

爆豪は近接戦で右に出る者はいないほどの強さを持つが、近接戦でなければヤツを負かすことはできない。氷で拘束して行動不能か、氷で場外で押し出すか。どちらにしても氷によるモーションに限られるため予想されやすい。機動力の高さも鑑みるに、瞬時に工夫していけるような下地を作るべきだろう。


『START!!!!!』


プレゼントマイクが叫ぶや否や、爆豪は爆破によって加速してこちらに向かってきた。あまりに速い。考えていた通りだった。
灯水は全力で全身に意識を向ける。そして、大量の水を出現させた。

そもそも灯水の個性は氷がベースで、それを炎によって溶かして状態変化させることで水や蒸気にする。それはつまり、焦凍が瀬呂戦で出したあの大氷結を水にして出すこともできるということだ。

まるで決壊したダムのようだった。一瞬で15メートルほどの大波となった水の塊は、フィールドはもちろん、グラウンド全体に濁流となって押し寄せた。濁流は客席の壁にぶち当たると水しぶきをあげ、下層席にいる人々に雨のように降りかかる。灯水の足元にも水が寄せてくるが、あくまで方向づけていたのでこちらには波とはなって来なかった。


『開始早々とんでもねぇ大濁流!!!爆豪まさかの速攻負けかーーー!!?』

「んなわけあるかぁ!!」


確かにほんの少しだけ淡い期待はあったが、すぐに波の影から濡れてもいない爆豪が爆破によって浮いているのを見て現実を見る。これではだめだったようだ、まあ当たり前である。

水は大方グラウンドに流れ、一段高くなっていたフィールドは全面が水たまりのようになっただけですぐに立って喧嘩できるようになった。着陸した爆豪は苛立ったように「来いやぁ!!」と叫んだ。


「じゃあ行くよ」


それに聞こえないだろう音量で返すと、灯水は足に力を籠める。そして勢いよく蒸気を噴き出した。


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