燃えろ体育祭/後編−12


空中に躍り出た灯水は、同じく爆破によって舞い上がった爆豪を空中で迎え撃つ。上から熱湯をぶちまけてやると、「うお、」と爆豪は慌てて避けて、敵顔負けの睨みを効かせてくる。
そして、一瞬で間合いを詰めると至近距離で爆破をかましてきた。耳元で響く爆音に一瞬だけ水中にいるかのようにキーンとなるが、咄嗟に氷で防いでいたおかげで何とか怪我には至らなかった。
すぐに氷を手から出して爆豪に向けるも、爆豪はさっと離れる。そこから規模を強めて爆破を放つのを察すると、同じく氷結で相殺。爆豪は爆破によって俊敏に空中で動きを変え、灯水は蒸気によって大きく動いて距離を保とうとする。


『おおーっとなんということだーーーー!!!翼の生えた個性でもない2人が、なんと空中戦!!こいつぁすげえことになってんな!!!』


ずっと試合を眼下に見ていた観客たちもこれにはテンションを上げていて、空中での氷結と爆破のせめぎ合いをこれでもかと見つめて囃し立てる。しかしそんな彼らを気にする余裕など、2人にはなかった。


「くそ、落ちろこのメッシュ野郎!!」

「あ、あだ名つけてくれたん、だっ!!」


すぐ側を爆破の衝撃が走り、同時に爆豪の頭に向けて氷結を放つ。爆破によって粉砕されると相次いで小規模な爆破を向けてきた。
それを避けて手を濡らそうと水をホースのように手から噴出するが機敏な動きで避けられる。


「爆豪、君っ!さっき昼間に聞いてきたこと、やっとわかった!」

「そうか、よ!おせーわ、カス!!」

「…っ、焦凍のために、生きてきたけど!!うおっ、でも、あいつもう、大丈夫そうだから!俺、もう役割卒業、だなって!!おらっ」

「ぐっ、んなこと、知るか!!」


爆豪の言葉を反芻して思ったことを言えば、爆豪は最終的に知るかと言うなり特大の爆破を向ける。さすがに相殺できないので、一気に後ろに下がり左手を下に向けた。

直後、燭台から炎の塊を勢いよく連続して銃弾のように撃ち出した。灯水側の燭台からは炎が鞭のように細くたなびいて撓りながら空中に揺らめく。爆豪側の燭台は意図的に先ほどの濁流から水をコントロールして避けていたため濡れていない。
爆豪側の燭台から火球の銃弾、灯水側から炎の鞭が爆豪に襲い掛かる。

炎のコントロールによって半燃の個性を使うと、体温が急速に上がっていくのが分かった。普通はありえない体温の変化は、脳を揺らして思考力を衰弱させる。この数秒で体温は平熱より5度は上がっているだろう。


『ここで炎のコントロール!!地獄みてぇなことになってるぞ!!』

「るせぇ、こんなモン屁でもねぇんだよ!!」


爆豪は叫ぶと、大きな爆破によって炎の鞭をかき消し、すぐに下に降り火球を放つ燭台2つを空中から爆破した。


「はぁ…っ、キツ、ここで、決める…!」


その背後に、灯水は一瞬で詰め寄った。蒸気の最大出力によって最大限の速さだ。爆豪が気付く前に到達した灯水は、その背中を思い切り蹴とばした。
爆豪は高さ3メートルほどから地面に叩き落される。蒸気は体力を使うため、灯水の視界もぐるりと回った気がした。


『ここで轟兄の奇襲がヒット!!!』


ドン、という重い音とともにフィールドに投げ出された爆豪はすぐに起き上がろうと上体を起こすが、その直前に灯水は蒸気を凍らせた。氷結の発動によって蒸気はすぐに氷となり、そしてそれは地面に触れていたため、地面に達する。

その地面は、最初の濁流で全体が濡れていたため、氷結は通常よりも素早く、爆豪が上体を起こし切って飛び立つよりも先に広がった。
結果、爆豪の床との接地面である下半身と左手が、氷結によって地面に縫い付けられたのだ。


『爆豪凍結!濁流、蒸気、熱湯に火球と最後に氷結が決まった!轟兄の混合型個性もめちゃくちゃつえーー!!』

「…っ、くそ、だめだ、あれじゃ…」


あの爆豪を地面に縫いとめたことで、会場の盛り上がりは一層激しくなった。だが、灯水は爆豪の半端な氷結を見て諦めざるを得なくなる。あれでは足りない。
呼吸がままならない。最後に氷結を使ったことで、灯水の意識はすでに朦朧とし始めていた。それでも氷の柱となった蒸気のあとから飛び降りると、灯水は爆豪のところへ向かう。
その足取りは、ふらついていた。

まだ諦めていない爆豪は、動かせる右手を灯水に向ける。しかし、その目が虚ろで顔が上気しているのが分かったのだろう、驚いたように動きを止めた。もう、灯水は限界だった。体が燃えそうなくらい熱いし、喉はカラカラだし、眩暈で世界が回っている。
こうなってしまえば、完全に爆豪を氷結に閉じ込められなかった以上、いずれ抜け出され灯水が戦闘不能になる。

蒙昧な思考は混濁し、目の前の現状すらぼやける。試合中ということや時系列すらもぐちゃぐちゃになる中ではっきりとするのは、灯水の心の原点。


「…おれ…もう…できそこない、やめないと、いけないのに…!」


いつまでも、どんなときでも灯水の行動原理になっていたのは、焦凍を守るということ。そのために”出来損ない”をやめるということだった。
だが負ければ、認めてもらえない。灯水に焦凍を守る資格があると認められなければ、灯水が焦凍の双子の兄である意味がない。その意味がなければ、灯水が存在する意味がないのだ。だから、灯水が誰の力もいらないようなヒーローになる器であることをーーー。


「…あ、おれ、もう、いらないんじゃん…」


ぼやけた思考に急に浮かぶのは、緑谷と戦う焦凍の姿。長年の束縛を離れて炎を使った焦凍の涙。それは、焦凍がもう1人で立っていけることを意味していた。同時に、灯水の存在理由そのものもなくなるのだということも。
どさりと力が抜けて、凍った地面に膝をつく。爆豪のすぐ目の前だ。険しい顔になった爆豪に見られている。「お前はどうしたいか」なんて、そんな答えは見つかりそうもない。


「……どこで、まちがったんだろ…どうすれば、よかったんだろ…」


どこでどうすれば、こんな気持ちにならずに済んだのだろう。こんな、自分というものがガラガラと崩れていく感じに包まれる、悲しく虚しい気持ちに。


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