燃えろ体育祭/後編−14


焦凍は保健室から控室に寄ったあと、ついにフィールドに出てきていた。先ほどは控室で爆豪に絡まれて、緑谷などどうでもいいから左を使って来いと言われた。
だが焦凍の頭にあるのは、灯水の言葉だった。灯水は、まだ迷っていていいと、それも大事なことだからと言ってくれた。焦凍の迷いをも受け止めてくれたことは、動揺する焦凍の心を落ち着かせてくれたように思う。

視界の端、保健室から近い最下層の客席の手すりに、灯水の姿が見えた。どうやら無事に回復したらしい。

爆豪には左を使えと言われたが、どうなるかは自分でも分からなかった。戦いの中で使おうと思えば使うのかもしれないが、今ここで使うことを前提にするのは不可能だ。


『さぁいよいよラスト!雄英1年の頂点がここで決まる!!決勝戦!轟弟対爆豪!!今、スタート!!!』


その声と同時に、焦凍は瀬呂戦ほどではないが大規模の氷結をお見舞いした。この迷いのある状態では、初手から爆豪の動きに対応していくのは難しい。まずは氷壁を造ったのち、爆豪の次の手を見極める必要がある。

すると、氷壁が轟音とともに爆発し、中から爆豪が飛び出てきた。爆破で氷漬けを防いでから掘り進めてきたらしい。
再び氷結を撃とうとしたところ、爆豪は爆破によって飛びのき、焦凍の上を通過しつつ左側の髪と腕を掴んできた。鋭い痛みが走るが、左を掴まれているため氷で捕らえることができない。


「ナメってんのかバアアアアカ!!!」


そのまま投げ飛ばされた焦凍は場外へ迫るが、氷壁をカーブさせてつくることでそこを滑り、場外に出ずに回り込んで爆豪に相対する。


「何迷ってんのか知らねえが!!てめぇがそんなんだから、あいつがあんな苦しんでんじゃねぇのかよ!!」

「なにを…」


爆豪が怒鳴ることが、「あいつ」が何を指すのか一瞬分からず困惑するが、爆豪は構わず続ける。


「散々守られといて自分が解決したらハイ卒業か!?てめぇは何を見てんだカス!!」


それはまさか灯水のことかと思い口を開こうとしたが、すかさず爆豪は攻撃しようと迫ってくる。焦凍は喋るのを諦めてあえて懐に入り、左手で爆豪の右腕を掴んだ。ここで炎を使えば大ダメージを与えられる。だがそうはせず、できず、とりあえず投げた。
その程度で爆豪をどうにかできるはずもなく、爆豪は先ほど焦凍がつくった氷壁に着地してこちらを睨みつけた。


「…それとも俺じゃあ力不足かよ…てめぇコケにすんのも大概にしろよ!!」


なおも左を使わない焦凍についに業を煮やしたらしい。爆豪は手のひらから爆破を起こしながら怒鳴った。


「ぶっ殺すぞ!!俺が取んのは完膚なきまでの1位なんだよ!舐めプのクソカスに勝っても取れねえんだよ!デクより上に行かねぇと意味ねぇんだよ!!勝つつもりもねぇなら俺の前に立つな!なんでここに立っとんだクソが!!!」


爆豪は叫ぶように言うと、爆破によって空中に上がり、そのままさらに爆破によって回転を始める。回転の威力を加えた大攻撃を仕掛けるのだろう。

勝つ。「俺だってヒーローに」と望んでいた幼いころの純粋な気持ちや、炎司への憎悪、母への思い、そして灯水。様々なものが混ざり合って分からないが、ここで勝つために左を使うというのは単純明快だ。じわりと左側が熱くなる。


「負けるな!!頑張れ!!!!」


客席から聞こえてくる緑谷の声。それがさらに、ただ爆豪に勝つという気持ちを鮮明にさせる。左側から噴き出す炎、にやりとして迫る爆豪。
思い切り爆風をかまそうと構えるが、そのとき、脳裏に母のあの目と炎司への憎悪が呼び覚まされる。あまりに強い憎しみの気持ちは、自然と左側の個性を消していた。

そしてその次の瞬間、強い衝撃とともに目の前が真っ暗になった。
「散々守られといて自分が解決したらハイ卒業か!?」という爆豪の言葉が、なぜかぐるぐると回っているような気がした。


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