迷い:保須事件−6


ビルの上を飛ぶこと数秒、すぐに目的地にたどり着いた。指定された路地に面するビルの屋上に止まって下を覗きこむと、ちょうど緑谷が見知らぬ男の刀を避けて股下をくぐり、背後に回り込んで上にジャンプしたところだった。緑谷のスピードそうだが、男の反射もすさまじい。というか、緑谷はいつの間にあんなに動けるようになっていたのか。
そして緑谷は上から男の頭に拳を叩き込んだ。ぐらりと男が傾いたところで、男を拘束しようと氷結をビルの壁伝いに走らせる。

だが男はそれに気づいてさっとその場を避けた。


「緑谷君!」

「えっ、灯水君!?」


蒸気で調整しながら飛び降りて地面に降り立つと、緑谷の隣に立つ。緑谷はびっくりしたようにこちらを見るが、いつの間に名前で呼んでくれるようになったのだろう。皆がそう呼んでるからか。
とりあえず灯水は緑谷から視線を男に戻す。あの見た目は思った通りだった。


「ヒーロー殺し…!」

「ハァ…今度はなんだ…」


男はヒーロー殺しだ。凶悪な表情に屈強な体、目元を覆う包帯に長いマフラーのような布。至るところに見えるのは刃物だ。


「と、轟君兄…!なぜここに、だめだ、逃げろ…!」

「飯田君!?」


後ろからそんな弱弱しい声が聞こえると、そこには飯田が倒れていた。少し離れた場所にはプロヒーローらしい男が壁に寄りかかるようにして倒れている。
飯田は血だまりの中にいて、一目で大けがをしているのが分かった。その姿に血の気が引く。


「君…にも、緑谷君にも…これは僕の問題だ、逃げてくれ…!」

「…、ここで逃げるようならヒーローなんて目指さないっての…!委員長やってる座学2位が何バカなこと言ってんの!」

「ふん、さすがは雄英といったところか、お前も…」

「グダグダうるさいわ!」


灯水は不気味に声を漏らすヒーロー殺しに向かって再び氷結を放つ。両側にビルがあるこの路地裏という状況はかなり制約されるため、氷がベストだった。
しかしヒーロー殺しはいとも簡単にそれを避けると、刀をぺろりと舐める。途端に、緑谷ががくりと体を地面に落とした。


「緑谷君!?」

「なっ…血か!?」


まったく動けなくなった緑谷に、飯田もヒーローの男も同じ手法でこうなったのだと分かる。


「口先だけの人間はいくらでもいるが、お前らは実力も期待できる…生かす価値がある。こいつらとは違う」

「何言ってんの…」


ヒーロー殺しはゆっくりとこちらに歩きながらそう言った。何のことか分からず睨んでいると、緑谷が何とか動こうと声を震わせながら灯水に話しかける。


「あいつ…血を経口摂取することで相手の動きを止める個性だ…」

「…、近接戦を避けろって?この状況で…」


あまりに地形的に不利だ。とりあえず近づけないよう氷結を構えると、ヒーロー殺しは一瞬で地面を蹴ってこちらに迫った。速くて目で追えない。


「なっ…!」

「灯水君!!」


目の前に狭る顔に何とか避けようと体をかがめたときだった。
突然、背後から猛烈な勢いで炎と氷が駆け抜け、ヒーロー殺しはパッと離れて後ずさった。


「次から次へと…今日はよく邪魔が入る…」

「緑谷、こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」


現れたのは焦凍だった。走ってきたにしては速い。咄嗟に灯水から遠ざけるように攻撃をした判断力もさすがだった。


「轟君まで!?なんで君らが…それに、左…」

「なんでってこっちのセリフだ」

「緑谷君のメッセージで気づいたんだ。ちょうど近くにいたからね」

「大丈夫だ、数分もすりゃプロが来る」


焦凍はついでに応援も呼んでくれていた。炎司なら灯水が言うより焦凍の方が効果があっただろう。焦凍は言いながら氷結を放ち、緑谷とヒーローごと地面を凍らせる。


「灯水!」

「おー、」


灯水はすぐに蒸気によってその場を飛びのく。その直後、火炎がヒーロー殺しに迫り、さらにヒーロー殺しは後退した。炎の熱が緑谷たちの氷を少し溶かし、氷を増やして斜面のようにすることで2人を焦凍の後ろに滑らせる。
灯水も焦凍の横に着地した。


「助かった」

「あぁ。…にしても、情報通りのナリだな、ヒーロー殺し。こいつらは殺させねぇぞ」


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