迷い:保須事件−8


体中にエネルギーが走っているかのように淡く光る緑谷は今まで見たことのないような動きだ。だがそれでもヒーロー殺しは上手で、思い切り肘打ちをかますと緑谷を地上に叩き落した。
ヒーロー殺しが接近できないよう、灯水はすぐに緑谷とヒーロー殺しとの間の地面に向かって氷結を放って壁をつくると、いったん後ろに下がって緑谷、焦凍と並ぶように地上に降りた。

緑谷はせき込みながらなんとか立ち上がる。


「僕だけ先に解けたってことは…考えられるのは3パターン、人数が多くなるほど効果が薄くなるか、摂取量か、血液型によって差異が生じるか…」

「血液型…正解だ」


ヒーロー殺しは離れた場所で自ら正解だと告げる。血液型によって、動きを拘束できる時間が異なるのだという。そんな個性だけでここまでの戦いをするなど、末恐ろしい。


「分かったとこでどうにもなんないけど…」

「さっさと2人担いで撤退してぇとこだが、氷も炎も避けられるほどの反応速度だ、そんな隙は見せらんねぇ」

「近接避けて時間稼ぎしかないか…」


3人で軽く方向性を話し合うと、緑谷は再びバチバチと力を帯びた。その発光は血管を通して体中に満ちていた。


「焦凍は血ぃ流しすぎだ、それ以上近づかない方がいい」

「そうだね。僕が先頭でヤツの気を引きつけるから、灯水君が中距離でフォロー、轟君は後方支援お願い」

「相当あぶねぇ橋だが…そだな。三人で、守るぞ」


ヒーロー殺しは3人をまとめて相手にするということで、さらに強い殺気を放つ。集中しているのだ。一瞬たりとも油断は許されない。

緑谷が地面を蹴って接近すると同時に、灯水もその後ろで一定の距離を保って走る。全身に力を入れていつでも動けるよう見ていると、ヒーロー殺しは一瞬で緑谷に迫り、姿勢を限界まで低くする。緑谷は想定より低い位置に攻撃をすかし、そこへヒーロー殺しの刀が緑谷の左足を切りつけた。


「ぎゃっ!!」

「緑谷君…っ、」

「ごめんっ、灯水君!!」


即座に刀を舐めて動きが止まる緑谷に代わり、灯水はヒーロー殺しを止めるべく、多めに蒸気を噴き出して空中に飛ぶ。ヒーロー殺しの動きを見るより先に、その蒸気を使って氷結をつくる。それは針山のように鋭く尖った氷の針が無数に飛び出す形で、その針山が路地の地面から両隣のビルの壁面にまで上った。
素早い動きを封じるためのものだったが、ヒーロー殺しは瞬時にそれを刀で破壊。


「やっぱだめか…!」


ここで応戦するより、下がって焦凍に合流して背後の守りを固めるべきだ。本気を出したヒーロー殺しの動きは常軌を逸している。
蒸気によって後ろへ飛び焦凍の横に着地すると同時に、焦凍は氷の壁を目の前に出現させる。


「やめてくれ…もう僕は……」


すると、そんな弱気な声が聞こえてきた。飯田だ。
ヒーロー殺しは焦凍の作った氷の壁を破壊してこちらに迫る。再び焦凍が氷結を放ち、灯水は足元の溶けた氷の水を伝いヒーロー殺しの後ろから氷を現すが、前方も後方も刀の一振りで破壊された。


「やめて欲しいなら立て!!!なりてぇモンちゃんと見ろ!!!!」


そんな飯田に怒鳴ったのは焦凍だった。そんなに大きな声を聞くのは久方ぶりだ。
ヒーロー殺しはなおも迫り、最寄りの焦凍へ近づいていく。炎を噴き出した焦凍だったが、呆気なくそれは避けられる。


「氷に炎。言われたことはないか?個性にかまけ、挙動がおおざっぱだと」


ヒーロー殺しは一瞬で焦凍の側まで近づき、その胸元に向かって刀を向ける。焦凍の体の脇を抜けるようにしながら刀を横に向け、焦凍のがら空きの胴体に入れようとしていた。


「焦凍!!!」


間に合わない。体の内側がさっと冷えるような吐き気にも似た感覚。手を伸ばそうとした瞬間、エンジン音のようなものが響いた。


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