迷い:保須事件−10


一瞬それで倒せたかに見えたヒーロー殺しだったが、最後の力を振り絞るように刀を飯田に向ける。だが、飯田はすでにその軌道にはいなかった。


「たたみかけろ!!」


焦凍が叫ぶと、炎がヒーロー殺しの頭を捉え、飯田の蹴りがもう一度ヒーロー殺しの胴体にもろに入った。
落下を始める2人を受け止めるため、灯水は氷の斜面で2人をキャッチするとこちらに滑って移動させる。焦凍は滑った先に氷の壁を設けて2人を止めた。
ついでにヒーロー殺しも氷の壁の一部で受け止めると、ヒーロー殺しは力なくそこにぶら下がった。まだ動くかと警戒を解かずに睨むが、ぴくりとも動かなかった。


「さすがに気絶してる…っぽい?」

「じゃあ拘束して通りに出よう、何か縛れるもんは…」


緑谷が言うと、焦凍はあたりを見渡してゴミ箱を見つける。飯田は呆然としたようにヒーロー殺しを見ていた。


「あっ、ロープあった。ついでい武器も全部外そう」

「灯水、動けるか?」


緑谷は足を引きずるように歩きながらゴミ捨て場からロープを見つけ出す。焦凍はそれを見てからこちらを見やる。
焦凍はすでに自分で腕に刺さったナイフを抜いているようで、灯水の右腕と左足に刺さったナイフを見る。


「…ちょっと、歩くのきついかも」

「応急処置する、抜くぞそれ」

「えっ、待って、抜くの。抜くの!?」

「ほらそこ座れ」


今時便利なもので、出血を止める薬品がある。それをつけるためにも灯水に刺さるナイフを外す必要があるわけだ。
必死の抵抗もなすすべなく、路地裏に絶叫が響き渡った。



***



すんすんと鼻を鳴らしながら、灯水は焦凍に肩を借り、足を引きずって何とか通りに出た。焦凍は灯水に肩を貸しつつヒーロー殺しをくくったロープを引っ張っている。緑谷は最初に襲われたヒーロー・ネイティヴに背負われ、飯田は何とか自分で歩いていた。

そこへ、通りの反対側から小さな老人が出てきた。ヒーローコスチュームをしていることから一応ヒーローと分かるが、瞬時にこちらへ寄ると緑谷の顔面を蹴った。


「なぜお前がここに!!」

「グラントリノ!!」

「座ってろっつったろ!!」

「グラントリノ!!」

「まあよう分からんが、とりあえず無事なら良かった」

「グラントリノ……」


聞いたことのないヒーローだが、恐らく緑谷の職場体験先のヒーローだろう。
それに続いて、5人ほどのヒーローたちがやってくる。焦凍が要請した応援だ。中心人物らしい女性のヒーローが言うには、炎司はまだ交戦中で、敵と相性が悪いヒーローが送られて来たということだ。灯水たちは何が襲撃してきたのか分からなかったが、緑谷いわく脳無の亜種らしい。

すると、飯田が突然頭を下げた。


「3人とも…僕のせいで傷を負わせた…本当にすまなかった…何も…見えなく…なってしまっていた…!」

「僕もごめんね、君があそこまで思いつめてたのに全然見えてなかったんだ…友達なのに…」


飯田の表情は後頭部によって見えていないが、地面にパタパタと落ちる水滴に見えずともすぐ分かる。


「しっかりしろよ、委員長だろ」

「……うん…」

「バーゲンダッツで手を打とう」

「うん……!」


茶化すわけではないが軽く言うと、焦凍に頬をつねられる。冗談に決まっている。とは言っても律儀な飯田のことだ、きっと買ってくる。あとで味を指定しておこう、と思ったら悟ったのか再び焦凍に頬をつねられた。

そのとき、通りの奥からバサリ、という羽音が響いた。同時にグラントリノが「伏せろ!!」と叫ぶ。


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