迷い:保須事件−12


治療中。自分たちが戦った結果に、特にそれを負わせた飯田と焦凍の顔がこわばる。これは、と灯水が話の流れを察していると、面構はさらに続ける。それは思った通りのことだった。

灯水たちが今回行ったことは、資格がないにも関わらず個性を使って危害を加えた立派な規則違反だ。警察が個性を武器として使うことをやめた一方で、圧倒的に不足する武の穴を埋めるためにヒーローという職業が生まれた。
それが認められたのも、黎明期のヒーローたちが規則を遵守して規律をしっかりと示したからだった。そうした先人たちの努力を守るために、ヒーローは資格制なのだ。


「君たち4名、およびプロヒーロー・エンデヴァー、グラントリノ、マニュアル。この7名には厳正な処分が下されなければならない」

「待ってくださいよ」

「轟君…!」


それに対して真っ先に立ち上がったのは、意外にも焦凍だった。まだ冷静ではあるが、理不尽だとその顔が如実に物語っている。


「飯田が動いてなきゃネイティヴさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ2人は殺されてた。誰もヒーロー殺しの出現に気づいてなかったんですよ。規則守って見殺しにするべきだったって!?」

「結果オーライであれば規則などうやむやでいいと?」

「ちょちょちょ、」

「焦凍、」


ぐい、と詰め寄る焦凍に緑谷が慌てて制止をかける。灯水も諫めるがまったく聞いていなかった。


「人をっ…救けるのが、ヒーローの仕事だろ!」

「だから君は卵だまったく…良い教育をしてるワンね、雄英も、エンデヴァーも」

「っ、この犬…!!」

「やめたまえ、もっともな話だ!」


飯田も焦凍に駆け寄って止めようとする。灯水も足が動けば行っただろう。だが、焦凍の怒る気持ちもよく分かる。
それをグラントリノが「最後まで聞け」と黙らせた。面構は静かになったところで話を続ける。


「以上が警察としての意見。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン」


面構は心なしか声のトーンを明るくして、恐らく本題に入る。いわく、この件はヒーロー殺しの火傷からエンデヴァーの功績にすることができる。そうすれば、目撃者がほとんどいないことから、4人のことをなかったことにして処分をなくすことができるのだ。


「だが君たちの『英断』と『功績』も、誰にも知られることはない。どっちがいい!?1人の人間としては…前途ある若者の『偉大なる過ち』にケチをつけさせるようなことはしたくないんだワン!?」


警察としては、たとえ正しくとも法に従わないそれは罰しなければならない。だが、面構自身は、灯水たちのしたことを英断、偉大なる過ちと評した。そこに見える姿勢など分かり切っていた。
4人は大人たちに「よろしくお願いします」と頭を下げる。


「大人たちのズルで君たちが受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが…ともに平和を守る人間として。ありがとう」


面構も頭を下げて、そう言ってくれた。大人の大人らしい誠実な姿勢に、焦凍はばつが悪そうにする。


「初めから言ってくださいよ…」


きっと、大人として叱らなければならないことだったから最初に言ったのだ。
改めて考えても、灯水たちは子供で、大人のやっていることには叶わない。職場体験全体を通じて、灯水がひしひしと感じたことだった。どんなに個性が強くとも、灯水たちは子供で、守られていることに気づかなければならないのである。


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