迷い:期末試験−6
そして期末試験。重い筆記試験を乗り越え、演習試験の日になった。
本校舎裏のバスロータリーにコスチューム姿で集まったA組の前に8人のプロヒーローが並ぶ。全員が監督者だとするとかなり豪華だ。
「それじゃあ演習試験を始めていく」
真ん中に立つ相澤が気だるげな説明を開始した。
「この試験ももちろん赤点はある。林間合宿に行きたけりゃみっともねぇヘマはするなよ。諸君なら事前に情報を仕入れてうすうす感づいてるとは思うが…」
それに対して上鳴は上体を逸らしてウェイのポーズをとる。芦戸もテンションを上げている。
「入試みてぇなロボ無双だろ!」
「花火!カレー!肝試しー!!」
そんな賑やかな2人をさえぎって、突然相澤の捕縛紐の間からひょこ、とネズミが現れた。校長だ。
「残念!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
上鳴と芦戸は沈黙した。緊張が走るA組の中、プロヒーローたちの数もあってようやく灯水は合点した。これは、恐れていた対人戦闘の流れだ。諸事情などろくなことがない。
思った通り、相澤と校長は、敵連合の出現による警戒態勢の強化もあって対人戦闘訓練を重視する方針になったということだ。そのため、これからチームアップで対人戦闘を行わされることになった。
組み合わせは個性や実力などからすでに決定されており、戦う教師も決まっている。
「まず轟兄弟と、八百万がチームで、俺とだ」
ニヤリ、とする相澤に、内心でげんなりとしていると、視界の端で八百万が体をこわばらせているのが見えた。
***
灯水たちが戦うのは演習場α、住宅街を模して造られた区画だ。本校舎から比較的近いところにあるため、バスでの移動もすぐだ。
車内には灯水たち3人と相澤しかおらず、沈黙が満ちている。相澤がいるのに作戦など立てられるわけもない。中ほどの席で灯水と焦凍が並んで座り、向かいに八百万が座っている。
「…八百万さんとチームで組むの初めてだよね」
「え、ええ…敵として戦ったこともありませんわね」
今までいろいろな訓練があったが、八百万とはまったく組み合わせが被ったことがない。同じチームはおろか、敵対するようなことにもならなかった。
騎馬戦で一緒だった焦凍と違い、灯水はまったく授業で八百万と接点がなかったのだ。
「一度一緒にやってみたかったんだよね。よろしく!」
「はい、よろしくお願いします!」
笑顔で挨拶すると、八百万もしっかりと頷いて返す。体が強張っているのは何とか解せたようだ。問題はこの3人でどう連携するかなのだが、それはほとんど話し合う時間はないだろう。
「…俺と灯水も一緒のチームは初だよな」
「あぁ、初回のヒーロー基礎学で戦ったくらいか」
「そういえば、なぜお二人とも騎馬戦で一緒にならなかったんですの?」
意外と焦凍とも一緒になったことがないのを思い出す。すると八百万が騎馬戦で一緒にならなかったことを今更疑問に思ったようだった。
「あのとき焦凍、露骨に勝ちに行ったもんねぇ」
「…、俺とお前なら2人だけで圧勝だっただろ」
「肩車して?学校中から嫌われそう」
氷結の力だけなら灯水の方が力そのものは強い。2人で合わせれば、あのフィールドすべてを一瞬で凍らせて機械作業で鉢巻を取っていく時間になっただろう。
すごい嫌がられるんだろうと思ってくすくす笑うと、「確かにそれは嫌われますわね」と八百万も笑った。擦れていた自覚のある焦凍はちょっとばつが悪そうだった。それに気づいて目を見合わせた灯水と八百万は、こっそりまた笑う。
「そろそろつくぞ」
「はい!」
それを、心なしか優し気に相澤が止めた。