迷い:期末試験−7
演習場に到着し、相澤に連れられて住宅街の真ん中まで移動する。演習場の南側の出入り口には臨時の門があって、校長があしらわれたファンシーなものだった。
車線のない道の途中で、相澤は立ち止まって時計を確認する。特に問題はないのか、そのまま今日の試験のさらに詳細な内容を話し始めた。
生徒がヒーロー、教師が敵役となって分かれ、教師と会敵したら戦うか逃げるかする。配布された手錠をかければ拘束とみなし勝利、もしくは門を誰か1人でもくぐれば勝利となる。
「実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼ぶ方が賢明だ。轟兄弟、お前らはよくわかってるはずだ」
どうやら相澤はあの保須事件の全容を知っているらしい。学校側もそれなりに理解しているということだ。当然である。
そしてそのうえで、相澤は応援を呼ぶことも重要な選択肢だと言っている。八百万は分かっていなかったが、灯水たちは小さくうなずいた。
「よし、じゃあ今から2分後にスタートのアナウンスが流れる。それまでに離れとけよ」
「マジか、行こう」
「ああ」
たった2分しか猶予がないということで、いち早く相澤から離れるために3人は走り出した。すぐに住宅街の路地に入り、入り組んだ道を奥へ進んでいく。なるべく目立たない場所を選ぶ必要がある。
『皆位置についたね。それじゃあ始めるよ。雄英高1年期末テスト、レディーゴー!!』
アナウンスはリカバリーガールのものだ。合図が聞こえても、3人は足を止めずに走り続ける。
「八百万!なんでもいい、常に何か小物を造り続けろ。作れなくなったら相澤先生が近くにいると考えろ」
先頭を走る焦凍は素早くそう指示した。上には電線が張り巡らされ、相澤が上を伝うには足場が多い。相澤の個性によってこちらの個性を消されれば、その視界にいるということだ。
「この試験、どっちが先に相手を見つけるかだ。視認でき次第俺が引きつける。そしたら八百万と灯水は脱出ゲートに突っ走れ。相澤先生は灯水を追うだろうから、隙をついて八百万は走り続けろ」
つまりは二重の囮だ。まず焦凍が時間を稼ぎ、次に最も機動力のある灯水が相澤に狙われる。その間に八百万がゲートに向かうというのだ。
「分かった。あ、そうだ、八百万さん。なんか自動で動く小さい車みたいなの作れる?」
「?センサー付きのラジコンでしたら、自動で作れます」
「それに俺の蒸気詰めた発煙筒くくりつけて逆方向に走らせよう。少しは時間稼ぎになるかも」
「なるほど、灯水が蒸気で移動してるように見せんのか」
いったん立ち止まると、八百万は腹からラジコンの車を創造する。それに、コスチュームを修繕してもらった際に足してもらった発煙筒をくくりつけた。着弾とともに蒸気が一気に噴き出す手榴弾と違い、長く蒸気が出続けるのである。
それをラジコンにつけて元来た方向に走らせると、5分ほどして蒸気が出てくる。
住宅街の屋根からぎりぎり見えるかという感じが、隠れて移動しているように見えてちょうどいい。
すぐに走り始めた3人だったが、灯水は真ん中を走る八百万の表情が硬いことに気づく。肌からポコポコとマトリョーシカを出しているのは無意識にできるようだ。
辺りに人の気配がないことを一応確かめてから、灯水は八百万に声をかける。
「…八百万さん、どうかした?」
「へ…?いえ、なんでもありませんわ」
「どうかしたか」
「いや…」
八百万はなんでもないと頭を振る。焦凍も後ろに若干視線を向けるが、それには灯水が答えた。本人が言いたくないならそれでいい。