林間合宿と動揺−5
合宿二日目。早朝の5時半に体操服で集合したA組は、眠気と戦いながら相澤の気だるい挨拶に返した。灯水は朝に滅法弱く、30分以上かけて覚醒する。皆より早く起きなければならないので、余計に眠かった。
「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今回の合宿の目的は全員の強化および仮免の取得」
ヒーローとして公の場所で個性を使うには資格が必要である。制限はつきつつも学生の身でそれを許可してもらうには、仮免というものを取らなけばならない。
普通は上級生が取るらしいが、今回は敵連合の脅威が大きくなるなかで1年生にも自衛のため、そして即戦力の確保のために取得させるのだという。
「というわけで爆豪、こいつを投げてみろ」
「これ、体力テストの…」
そこで相澤は爆豪にボールを投げ渡した。1学期の最初に行った体力テストのボール投げで使ったものだ。
「前回の入学直後の記録は…705.2メートル。どんだけ伸びてるかな」
USJ事件に始まり、体育祭や職場体験を経てどれだけ伸びているか。クラストップの実力を持つ生徒でもあるため注目が集まる。
「んじゃよっこら…くたばれ!!!!」
くたばれとは。本質は変わらないものだな、と思っていると、相澤は意外な数値を突き付けた。
なんと、709.6メートル。さほど伸びておらず、記録自体も初期から変わっていなかった。
「約三か月間、様々な経験を経て確かに君らは成長している。だがそれはあくまでも精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで、個性そのものは今見た通りでそこまで成長していない」
確かに、個性そのものというよりは、その使い方や考え方、立ち回り方などで成長を強いられる場面は多かったが、個性自体を強くするということはやっていなかった。
「だから、今日から君らの個性を伸ばす。死ぬほどきついがくれぐれも死なないように」
***
「あっちぃ…!」
「つめっったぁ…!」
真逆の感想を漏らしながら、灯水と焦凍はそれぞれドラム缶に入った。焦凍のドラム缶は下に火が焚かれており、五右衛門風呂となっている。相当熱そうだ。
一方の灯水は、ドラム缶には氷が浮かんだ冷水が入れられている。いくら夏とはいえ、心臓が止まりそうな冷たさだ。
「っ、ああああ冷たい冷たい!死ぬ!!」
「じゃあ個性使ってみろ。言った通りにな」
「うう、はい…!」
とりあえず何か叫ばないとやってられないと思っていたが、相澤はまったく無視して指示を出す。言われたら即実行するのがA組の掟だ。
灯水の訓練は、焦凍と同じく個性の同時使用と上限の引き上げだ。ただし、2人は条件が異なる。
焦凍は氷結を主な力としてきたので、氷結を出しながら炎を出すことが必要だ。その際、焦凍は体を冷やしすぎてしまうのでお湯の中でやることで凍結を防ぐ。同時に、体が氷結に慣れて上限値が上がるのだ。
灯水は逆で、氷結の力を熱して使う蒸気を最も多用する。そのほか水、熱湯や超臨界水などもすべて熱によって氷を解かす作業の上に成立する。そのため、灯水は体が熱されすぎてしまうのだ。事実、体育祭でも高熱に陥った。
灯水は冷水に浸かって高熱になるのを防ぎつつ、蒸気とその他の力を同時使用できるようにし、かつ体を慣れさせる。
また、2人ともドラム缶の水温を一定に保てるよう微細なコントロールも学ぶ。
お湯の中で汗をかきながら氷結を出して炎を吹きだす焦凍と、冷水の中で震えながら蒸気と熱湯を出す灯水。過酷な環境にともに目つきが悪くなり顔色も悪かった。
2人だけではない。緑谷はワイプシの大柄な男(元女性)であるヒーロー・虎のもとで一昔前に流行ったようなエクササイズをやらされ、定期的に殴る蹴るの暴行を受けている。飯田はひたすら外周を走っており、爆豪はドラム缶の水の中で爆破を続けている。
麗日はピクシーボブに作ってもらった地形の中で自身を浮かせてぐるぐると周り、青山や上鳴、瀬呂は個性を使い続けている。常闇の悲鳴が洞穴から響き、尾白が切島の硬化した体に尻尾を打ち付ける。砂藤と八百万はひたすら食べながら個性を使っていた。
まさに阿鼻叫喚。それぞれに合った訓練を、ワイプシの中でサーチという個性によって同時に複数人を監督できるラグドールが見て、マンダレイがテレパスという個性によって一度に複数人にアドバイスを脳内に直接伝達する。合理的だが、その結果生徒たちは地獄のような訓練を最大限受けさせられていた。
「し、しし心頭滅却…!」
「それ…涼しくなるやつだろ…大丈夫か…」
「だ、だだ大丈夫!し、焦凍は!」
「…大丈夫だ…ちょっと、くらくらするだけだ…」
まったく大丈夫でない2人である。