林間合宿と動揺−6
「さぁ昨日言ったね!「世話を焼くのは今日だけ」って!」
「己の飯くらい己で作れ!カレー!」
ピクシーボブ、ラグドールの2人がテンション高く示す机には、A組とB組それぞれに食品が大量に用意されていた。飯盒炊飯で米を炊いて作るタイプのカレーのようだ。
正直全員、訓練によってへとへとだが、ここで諦めては夕飯を食べ損ねる。なんとか気力を振り絞って、一同は役割分担を決めることにした。
「じゃあ女子で飯盒炊飯やろっか!んで、轟は火ぃ見る係ね!」
早速芦戸が提案すると、特に異論は出ない。味付けなどの部分を女子に任せることになるので、女子が米をやっている間に男子はひたすら野菜などの調理だ。
「くそ、轟だけ女子といやがって許っ羨!」
峰田が言うと、上鳴や瀬呂も羨ましそうにする。切島はそんな彼らの背をぽんと叩く。
「しょうがねぇよ、俺らの個性じゃなんも役に立てねぇ。素直に野菜切ろうぜ」
灯水は野菜担当になり、上鳴、切島、尾白とともに4人掛けの机にまな板を並べ野菜のカットを始める。その横では皮むきとして峰田と瀬呂がピーラーを使ってひたすらニンジンとじゃがいもの皮を剥いていく。それが終わったものを4人でカットするのである。
「灯水が炎出せなくてよかったぜ、これで灯水まで女子側行ったら俺ら勝ち目なかったもんな」
ニンジンを輪切りにしていると、峰田が慣れてきたのかそんなことを喋り始めた。相当羨ましいようだが、たとえ峰田に炎が出せても女子に受け入れられなかったと思う。前科が多すぎる。
だがそれは思うだけだ。
「いや、あいつは確かに格好いいけど俺はそんなんじゃないし」
「か〜〜謙遜!うぜ!素直になっていいんだぜぇ?お前だって男だ、モテたいだろぉ?」
正直中学時代に面倒しかなかったためまったくそんなことはない。だがそれを言うのはさすがに良くないだろう。
「今は勉強で忙しいからそういうのはなぁ。てか俺より切島君とかのがモテそうじゃない?」
「…へっ、俺?」
矛先が向くと思ってなかったのか、切島は驚いたようにこちらを見る。その手にあったじゃがいもの芽は思い切り抉られていた。食べられるところがだいぶ小さくなっている。
「男前で格好いいし」
「い、いきなりよせって…つか灯水に言われるとなぁ」
切島は困ったように隣の上鳴を見る。上鳴は訳知り顔でそれを引き継いだ。
「ま、轟は当分俺らの敵ではないから俺はそんな気にしねぇけどな」
「おいバカ、それはやめとけ」
上鳴をさえぎったのは瀬呂で、切島も焦ったようにしていた。峰田は知らないのか、ピーラーを置いて上鳴に体を寄せる。
「な、なんだ上鳴!あいつ好きなやついるのか!」
「あ、あ〜、え〜とね、うん、さあ?」
「下手か!おい水くせぇぞ教えろよ!灯水は知ってんのか?」
「…いや?俺は心当たりないな」
峰田同様知らない灯水は首を傾げるが、上鳴は曖昧に笑うだけだった。
「ま、まぁ秘密だな」
「なんだよ!教えろよ!灯水も気になるだろ!」
「や、俺は別に」
苦笑して否定する。好きな人がいるならそれはそれで良いことだ。例によって、灯水は焦凍がそうやってポジティブな感情を覚えていくことを嬉しく思うし、そのまま生きて行ってほしいと思う。
ちょうど向こうで、焦凍が麗日たちに火をくべて喜ばれていた。あんなに左を使うことを嫌がって周りと距離を置いていたのに、焦凍は皆とこうやって個性を使って一緒の作業をすることを楽しんでいるようで、珍しくうっすら微笑んでいた。
あんな顔をして炎を使うなんて、ほんの数か月前にはあり得なかった。
ちょっと距離は感じてしまうが、それでも灯水はまだ頑張れる。わいわいと楽し気にしているクラスの中にいる今は、この皆と一緒に頑張りたいと思えるからだ。