夢主と考える国際経済シリーズ
−Splendid Isolation?
その日、 世界に激震が走った。
「イギリスぅぅぅうう!!!」
「考え直せ!!」
叫ぶフランス、怒鳴るドイツ。
「はぁ…君のそういうところ、よくないんだぞ」
「イギリスさん……」
呆れるアメリカ、項垂れる日本。
「EU入るの待ってて良かった…」
そして息をつくアルレシア。
「ま、まぁ俺には栄誉ある孤立が一番性に合うんだよな!」
少し顔をひきつらせて笑うイギリスは、各国の鋭い眼光に冷や汗を垂らした。
***
イギリスにおけるEU離脱の是非を問う国民投票は、各国首脳や財務大臣、市場関係者、中央銀行トップ、シンクタンク、どこもかしこも最終的には残留するだろうと考えていた。
一応、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行は離脱への備えをしていたが、市場はほぼ油断していたと言っていい。
まさかの離脱という結果は、その時開いていた東京市場における1ドル=99円の円高、1300円の株安という数字に分かるような大混乱を引き起こした。
その後の欧州市場も全面株安で始まり、世界的に株安が始まっている。
これを短期的な反動と見るか、長期的な世界経済の停滞と見るかは意見が分かれる。
しかしこれはあくまで政治的ショックであり、リーマンショックのような金融恐慌ではない。
そのため、世界的大不況というような事態にはならないと考えられている。
このような場合に想定されるのは、市場における流動性の収縮である。
簡単に言えば、みんなが取引するのを恐れて売り買いをしなくなり、金が動かなくなることをいう。金が動かなくなれば、経済は縮小し、不況になる。
リーマンショックによる2008年恐慌はまさにこの状態をもたらした。
取引しなくなる理由は、やはり混乱による信用の喪失であり、人々が市場や国を信用できなくなり取引を控えてしまう。
今回の場合、人々にとって信用できないと感じるのは以下のような点だ。
まずは世界経済の混乱。世界的に人々が取引を控えるのではないかという懸念や、各国が有効な手を打てないのではないかという疑念である。
続いて、イギリスと欧州への不信。今後イギリスは、EUに対して脱退を正式に通知し、通知してから実務的な交渉に入る。
前例がない上に欧州とイギリスとの利権が全面衝突するため、まったくどうなるか分からないのだ。こればかりは、どんなシンクタンクや関係者も予測できない。
これまでEUとして結ばれてきた条約や協定がどの程度イギリスに引き継がれるのかも不透明だ。
このようなことによって、イギリスと欧州の先行きは五里霧中どころか真っ暗闇であり、将来への不信感が募るわけだ。
しかし、これらはすべてそう大きな問題ではない。
まず市場の流動性については、すでに各主要中央銀行が協調介入を示唆している。
恐らく、 各国が米国ドルを市場にばらまいて流動性を確保する形を取るだろう。基本的にこのような場面で使われるのはハードカレンシー、つまり米国ドル、英国ポンド、EUユーロ、スイスフラン、そして日本円だ。
当事国であるポンドとユーロはあり得ないし、すでにユーロは異次元緩和状態でもうばらまけない。スイスフランもあの2013年ショックが原因で信用ならない。日本円もすでに異次元緩和状態。となればドルしかないわけだ。
イギリスと欧州の先行きについても、関税の復活は最悪でもGATTのレベルを上回ることはないし、そもそもが自由主義発祥の地であるため、元から概して関税は低い。
その点についてはある程度予測がつくため、イギリスを玄関に欧州市場へ乗り出す計画は若干のコストの上乗せにすぎない。
結果を待てない者から、恐らくアイルランドなどへ移動するだろう。
そういったことから、世界に与える影響はそう終末的なものではないのだ。
…日本を除いて。
日本は、円高を基調とする推移を経験することになる。リーマンショックのときのようなものではないため、そう悲観的になることではないが、財務省と日銀は有効な手立てもない。
先に述べた通り、協調介入は恐らくやるとしたらドルでおこなわれるため、ドル安で市場が動く。そうなれば自然と円高圧力は避けられないため、前年比で円高となるだろう。
すでにマイナス金利という最終手段を使っているため、これ以上のこともできないし、やってもドル安には勝てない。
アメリカの雇用統計やGDPが振るわず利上げに慎重なのも円高要因だ。
そのため、市場が落ち着きを取り戻し、アメリカが回復して利上げするときまで、日本は大規模な円安誘導が行えないかもしれない。
当面、日本は円高とデフレ再突入への恐怖に苛まれるだろう。