夢主と考える国際経済シリーズ
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イギリスの離脱を受けて、急遽世界会議が開かれた。
アルレシアももちろん参加している。


「最近お前とも上手くいってると思ったのに…このクソ眉毛!!」


早速暴言を吐いたのはフランスだ。
ラブレターまで送ったのにも関わらずの結果に憤慨している。


「うるせぇな髭野郎!てめぇんとこから移民がめっちゃ来るんだよ!」


「誰のせいで移民が発生していると思ってるんだ…」


ドイツはすでに頭痛が始まっているらしい。米神を押さえながら、感情も抑え込んでいた。
ちなみに、移民や難民が来るシリアやパレスチナはイギリスのサイクス=ピコ協定、アフガンやパキスタンはイギリス植民地時代から混乱の端緒はある。
大部分はイギリスが撒いた種と言っても過言ではない。


「うっ…そ、それは然るべき対処を国際社会でやるよ…」


「なんでもええけどジブラルタル返してくれへん?EU抜けられたらもっと困るんやけど」


スペインからスペイン継承戦争時にイギリスに奪われたジブラルタル海峡は、当然のごとくEU残留を支持した。
スコットランドは独立を、アイルランドは北アイルランド併合を求めて活動を活発化させることが予測される。


「それは後回しにしてくれ…」


イギリスにとってもその辺りは昔から頭痛の種だ。


「EUでの難民問題や保護主義と自由主義のバランスが取れなくなるのも問題ですよね…」


北欧の優等生フィンランドは、冷静にEUにおけるバランス感覚が取れなくなることを危惧した。
スウェーデンとエストニアも頷いている。


「せやで、イギリスさんおらんかったらEU統合に問題出てまう…」

「フィンランドさんや姉さんの言う通り、EUでのイギリスさんの立ち居地はとても意味がありました」


ついで欧州統合の中心たるベルギー、ルクセンブルクも苦言を呈した。


「ポンド危機のときからEUとは折りが悪かったんだよ…」


イギリスにとってはEUからいいように扱われいるという見方もある。それくらい、イギリスのEUにおける負担は重かった。


「お兄ちゃんはどう思う?」

ベルギーがオランダに振ると、オランダは閉じていた目を開けて意外なことを言った。


「俺はイギリスの気持ちも分からんでもない。ウクライナんこともほうやし、最近EUには懐疑的やざ」

「俺もイギリスとオランダに考えはちけぇっぺぇ!」

「…やめどげ」


実は、イングランド、オランダ、デンマークは民族的にほとんど同じであるため、非常に個が強いという国民性が通ずる。
そのため、オランダではEU離脱への考えもかなり真しやかに語られる。
しかしユーロを使っている関係から、イギリスほど離脱は簡単ではない。
デンマークは通貨こそ異なるが、EU内にいなければ立ち行かない小国だ。

EUに入っていない苦労を知るノルウェーが諌めるのも当然である。

だが活動自体は活発化しつつあり、デンマーク、オランダ、スペイン、イタリア、フランス、ドイツでも離脱、反EUの政党が勢力を伸ばす。


「我輩もイギリスの姿勢には理解している。しかし介入はやめないからな」


スイスは現在、大規模な介入によってフラン高を押さえている。欧米は3年前を思い出して目をそらした。


「私はそもそもキリスト教徒以外の移民は受け入れませんし、難民なんて集団テロリストのようなもの、受け入れるわけにはいきませんわ」

「俺もEU抜けようかな〜」


自民族至上主義のチェコは、EUにおける難民反対国の先頭を歩く。大統領が難民を侵略者と吐き捨てたほどだ。
オランダと並ぶ、いやそれ以上にドイツ人とマジャール人、そして有色人種を差別する国でもあり、そもそもが難民に対して過激な考えに至りやすい。
スロバキアもチェコほどではないがそのきらいがあり、EU離脱の国民投票を示唆している。

しかし、両国ともEUから抜けてやっていけるような国ではない。


「ほんっと、チェコは性格悪いわよね。私がどんだけ受け入れてると思ってんのよ…だからイギリスさんには抜けてほしくないんですけどね」

「ハンガリーの言う通りですよお馬鹿さん」


極右が政権を握るハンガリーは難民の玄関として苦労し、チェコと同じく難民反対を訴える。
オーストリアも極右が台頭し、危うく大統領になるところだった。特に日本と同じく、ファシズムを経験して極右アレルギーになったオーストリアでのその事態は、現在の欧州が抱える問題の深刻さを物語っている。


ヨーロッパの主要な当事国が喋り終えると、今度はアジア太平洋地域だ。


「イギリス、君そんなにTTIPを批准したくないのかい?」


アメリカが呆れたように言うと、ドイツやフランスが鋭い眼光をアメリカに向けた。TTIPとはアメリカとEUの間の自由貿易協定のことで、わりとEUにとっては地雷だ。
TTIPによって大幅な規制撤廃を迫られるイギリスは、EU脱退によってTTIP批准を免れる、というかEU離脱の理由のひとつこそがTTIPである。


「てめぇにくれてやる政府調達なんてねぇ!」

「そうですか、イギリスさん…残念です。ロンドンが中国産のもので溢れ変える様は見たくなかったんですが…」


実は金融と貿易については弱腰どころかかなり性悪な日本は、遠回しに中国に敗れ駆逐されるイギリスの未来を残念がった。
衰退著しいEUとアメリカは、台頭する中国に恐怖を抱く。欧米と価値観を共有する日本は彼らにとって最後の砦であり、現役で極東のキーストーンだ。
TTIP、TPPによる事実上の中国封じ込め政策と、日本が調整する東アジアの自由貿易圏RCEPはまさに世界を構築する3本の柱となる。
イギリスはそのどれにも属さず、単独で中国と戦って敗れ、ひとり欧州で没落する運命を辿る、そんな意見は主要な潮流のひとつである。


「我を悪者みたいに言うのやめるヨロシ!なんて失礼な!」

「そうですよ、先生は将来英国省を作る的なこと考えてるだけで」

「香港!?我そんなこと考えてないアル!!」


他人事なのは中国や香港など東アジア組だ。イギリスが抜けたところで、鴨が一匹増えたにすぎない。


「まぁ、経済的に我が英国での影響強めるのは当然アルが…アヘンの恨みアル…ふふ…」

「先生…!俺も手伝うんで!Would you like to exchange some sterling pound, or buy the Japanese national bond with pound?10-year one's yield gets lower and lower!」

「あ、俺!俺が売るんだぜー!円に変えてやるんだぜ!!」

「老師はムカつくけど私も売るヨ!円建てとドル建てネ!あと日本さんの国債も買うヨ!」

「あ、じゃあ私も売ります。ドル買いと日本国債買いで」

「私もドルで頼む」


他人事、しかしチャンスと見ている。
中国の悪どい笑みに恍惚とした香港はすぐさまポンドを売り払い、マイナス金利で人気の日本国債をばらまく。
即座に韓国、台湾、タイ、ベトナムが乗り、日本もほくそえんだ。
チーム東アジア、完全に悪役である。


「俺は連邦だけど知らねーかんな!あと香港、俺も円と国債買いで頼む」

「僕も知りませんよ、自分のケツは自分で拭いてくださいね〜。あ、香港さん、僕も円買いで」

オーストラリア、ニュージーランドも塩対応だ。こちらは最近、完全に東アジアの仲間入りである。


「君たち、最近ほんと悪どいな!俺といい勝負じゃないか!あと香港、俺も国債買い」


そんな東アジアでの影響力を高めたいアメリカはやはり一々口を出す。イギリスの勝手にはもう愛想をつかしたようだ。


「香港、俺も円を頼む」

「俺もおねが〜い!」


さらにはドイツとフランスまで香港から売買を頼む始末。


「イギリス…」


ずっと静観していたアルレシアは、ちょっと涙目になって財布を確認するイギリスに同情と呆れを混ぜて声をかける。


「なんつーか…Splendid Isolation(栄誉ある孤立)ってより、Isolated Porn(チェスにおける孤立したポーン)ってのが正しい…おい泣くなって」


ぐすぐす言い出したイギリスの肩を叩き、アルレシアは香港に目配せしてポンド売り円買いを注文したのだった。


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