夢主と考える国際経済シリーズ
−4



再びやって来たのは台湾だ。アルレシアの想定通りである。シナリオに沿って進むことに笑みを浮かべそうになった。
あれ、こんな性格悪かったか?と思うアルレシアだが、昔からこうである。


「わ、私は…」

「おう」

「…、アルレシアさんの要求を飲むヨ!が、頑張りマス!」


涙を飲んで言い切った台湾にアルレシアはニッコリと笑ってやった。


「ありがとう、台湾。でも俺もやり過ぎたかと思ってな…政府調達の解放は、55%でいい」

「えっ!?」


綺麗な笑みで、最後の最後に飴をくれてやる。大幅な解放率の引き下げは、台湾に他の条件の痛みを忘れさせた。
そもそも政府調達が解放されなくとも、狭い台湾で参入することは少ない。

どちらかといえばタイやマレーシアに対しての要求を飲ませるために政府調達で合意させたいだけなのだ。その割合は高くなくていい。


「ありがとうネ!アルレシアさん!!」

「こちらこそ」


早くFTAを欧州国家と締結した実績が欲しい台湾は、飲む条件が多くなる。それを見越して、アルレシアは台湾に様々な要求をしたのだ。
そしてついに、台湾も大筋合意にこぎつけた。


***


「アルレシア!俺もお前の要求飲む!」


慌ただしくやって来たのはオーストラリア。
オーストラリアは肉のことだけしか問題がないため、台湾の高度な工業製品に押される前に合意したいようだった。


「衛生基準はアルレシアに合わせる!他のもタイに合わせっからさ!」


「ほんとか?助かる。お礼じゃねえけど、お前からの牛肉の無関税輸入枠、10年で3倍にするんでどうだ?」


「ぅえっ!?アルレシアが折れた!!」

「交渉だしな」


ここでもアルレシアは人を魅了する(本人はそうとは知らない)笑みで譲歩してやった。
オーストラリアの国内世論に配慮した形だ。代わりに、いざというときは輸入を禁止できる。
アメリカの方が近いため、オーストラリアからの輸入量が増えてもオーストラリアとアメリカが勝手に戦い、どちらかが勝つだけだ。


そうして、オーストラリアとも大筋合意した。



***



微笑みがなくなって焦った顔をしたタイには、アルレシアは譲歩を示さない。


「知的財産権。台湾はここまで折れたし、オーストラリアとニュージーランドも同じ基準になった。どうする?」


ここでタイが拒否すれば、交渉は頓挫する。そうなれば、国家として認められていない台湾に負けたどころか、工業製品が台湾やオーストラリアに圧迫される。すでにシンガポールにもやられているのだ、タイに後はなかった。


「…、せめて、10年に…」

「…はぁ、分かった。こちらの規定する種類の感染症に関してはそうする」


アルレシア国内で感染症として感染力が高い危険な感染症と分類されたものの医薬品に関してなら、医薬品特許を10年にし、他は15年とするということだ。
インフルエンザなど主要な感染症を含むため、タイはそれならばと頷いた。

実際、アルレシアで力を入れようとしているのは感染症ではなくガンなどの重症化する疾病や予防薬だ。ここで折れても構わない。

ようやくタイは微笑みを戻し、合意した。



***



最後に残された韓国は、引き攣った顔でやって来た。


「アルレシアまじアルレシア…」

「なんだそれ。で、どうすんの?」


すでにタイや台湾の工業製品の原産地規則が決定されてしまい、韓国の製品はこのままでは圧迫される。
農業品目や政府調達もしかりだ。

少しずつ各国に譲歩はあるものの、概ねアルレシアの思惑通りといったところである。

この合意内容を踏襲するのはそれなりに不利益だが、アルレシアに対して転換効果が発生する方がデメリットが大きい。首を縦に振るしかなかった。


「アイゴォ……仕方ないんだぜ…」

「…45%」

「へっ?」

「原産地規則。付加価値基準45%にしてやるっていってんだ」

例によって、ラストの飴である。
韓国は目を輝かせた。


「残り物には福があるって日本の言った通りなんだぜー!まあ俺が起源の言葉だけど!!」


オーストラリアの牛肉同様、アメリカや台湾と競争し、負けた国は輸出が減るのだから、アルレシアへの影響はたかが知れている。
そうとは知らず、韓国もついに合意した。

同じようにマレーシアやチリも合意。

2000年までに、アルレシアはアメリカ、カナダ、メキシコ、チリ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、タイ、マレーシア、台湾、韓国とのFTAを相次いで締結。
環太平洋地域の国々と自由化し、一気に経済を成長させることとなる。
これらの国々のほとんどが後にTPPに参加したため、アルレシアは転換効果を被る前に偶然にも策を打てたのだった。


101/163
prev next
back
表紙に戻る