夢主と考える国際経済シリーズ
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「じゃあ欧州議会は何やんの?つかいる?」
「欧州議会は、欧州委員会から提出された法案を閣僚理事会とともに精査する。これを通常立法手続きという。また、委員会が提出した予算の承認や委員会メンバーの承認、不信任ができる。予算は委員会と閣僚理事会で決定するが、全体の承認を議会から得られなければ実行できない」
閣僚理事会の次に権限があるのが欧州議会である。欧州委員会メンバーへの関与や予算の承認などに強い権限を持っている。通常立法手続き(OLP)で閣僚理事会とともに法案の審議(reading)も行い、決まらなかった場合は閣僚理事会と欧州議会の代表による調停委員会が開かれる。
また、各国議会は事前に法案の審議を行い、同様のものが国内法にないかどうか確かめる。EU法は補完性の原理といって、国内法にその規定がないことを条件に制定されるからだ。
「欧州委員会は行政府なんだっけ?」
「そうだ。だが、必ず法案提出の最初の段階となる」
「現場の声ってことか」
「あぁ。また、予算とEU法の実行と決算報告、EU法の監視、そして国際社会におけるEUの代表でもある」
EUにおける省庁と予算委員会などの役割を兼ねているところであり、欧州議会の次に権限を持つ。
各国首脳による欧州理事会は権限がない象徴のようなものだ。
つまり、象徴的な大統領が欧州理事会議長(現:ドナルド・トゥスク)、首相が欧州委員会委員長(現:ジョーン=クラウド・ユンケル)、国会の議長が欧州議会議長(現:マルティン・シュルツ)、内閣府が閣僚理事会、国会が欧州議会、各省庁が欧州委員会ということだ。
「うわ、ややこしすぎて入りたくない」
「そんなことを理由にしないでくれ…」
とりあえずアルレシアはEU加盟を見送ったのだが、それは他にも理由があった。
2005年当時、EUはEU憲法を巡って議論が紛糾していたからだ。8の条約と50以上の協定はまさに複雑怪奇だったため、憲法という形で整理しようというようになったのだ。
しかし、憲法というのはさすがに急進的すぎた。
「お兄さんさすがにそれは無理〜」
「俺も無理やざ」
なんとEU成立の中心であったフランスとオランダも国民投票で否決した。これによって各国では国民投票すらやらないことになり、完全にたち消えた。
また、アルレシアの政治体制にも問題があった。立憲君主制になったのが1830年であり、それ以来二院制をとっている。上院にあたるのが、それまでは同君連合のときのみ召集されていた枢密院である。当時は貴族、官僚、専門家、陸海空軍と禁軍および憲兵の幕僚で構成されていた。下院は選挙で選ばれた一般市民である。
現在、貴族と禁軍はなくなり、憲兵は警察省となった。そして、上院はアルレシアを構成する4つの州の知事と首都の市長、5つの国立大学と指定された12の私立大学の代表、13の国立研究所と8の指定された研究所の代表、 アルレシア全国教育者団体の代表、アルレシア商工会の代表、その他経済に関する4つの利害団体と貿易に関する10の利害団体の代表、環境や人権、NPOなど21の団体の代表、そして陸海空軍の幕僚、合わせて73名が常駐議員として在籍する。もう70名が一般市民から選挙で選ばれる。
この上院は下院と同等の権限を持つにも関わらず過半数が選挙で選ばれないことが、EUの求める民主制に若干合わないのである。
そこでアルレシアは、EUとはFTAを結ぶことを選んだ。経済さえ自由化できればアルレシアにとってはいい。すでにアジア太平洋の国々の多くと結んでいることから、さらなる経済の活性化のためにEUとの単一市場アクセスが必要だった。
交渉は一年で妥結し、2005年末に発効。アルレシアはついに、名実ともに欧州と和解したのである。
「アルレ、てきねぇないんか?」
その晩、オランダが訪ねてきた。その心配そうな顔は、アルレシアがFTAによって国内産業を圧迫されるのではないかという懸念を表していた。
「んー…まぁ、ぶっちゃけ痛いっちゃあ痛いかな。けど、貿易量そのものは増えてる。関税なくなって輸出額も増え始めたし」
「アルレがかたいんやったらええわ」
元気でいてくれればいい、なんて言ってくれるオランダは、リアリズムな昨今であってもアルレシアのことを考えてくれている。そんな存在がいることは、本当に幸せなことだと思う。
「上がってけよ、オランダ。なんか作ってやる」
「ホンマか!ほやったら、一緒に作りよっせ」
「いいな、何にする?」
オランダを家に上げてキッチンへ向かう。昔はよくやっていたし、それこそ同君連合時代は毎日のように一緒だった。これから、また同じように会うようになるだろう。
EUも悪くないな、なんて思うアルレシアだったが、3年もしないうちにFTAで留めておいたことを正解だったと認識することになるのであった。