夢主と考える国際経済シリーズ
−リーマンショックと金融恐慌



2008年9月15日。

朝刊を握るアルレシアの手が震えた。ガサガサと鳴る再生紙の束を一度テーブルに置き、落ち着かせるようにコーヒーを飲む。柔らかな欧州の9月の朝日がカーテンから差しこみ、外の街からの喧噪がいつも通り聞こえてくる。
大丈夫。いつも通り。年初のダボス会議だって、今年の世界経済は堅調に推移すると言っていた。

もう一度、新聞の見出しを見る。


「リーマンブラザーズ、経営破綻…米国政府の救済はなし…」


さて、メリケンサックはどこにあっただろうか。殴る気満々で、アルレシアは引き出しを漁った。



***



ことの始まりは、アメリカでの住宅バブルにあった。
アメリカでは住宅市場が頗る快調で、絶対に儲かるとまことしやかに言われていた。そこで、一発逆転を狙う低所得者たちによる住宅転売を利用した金儲けが始まった。購入したときよりも、時間がたてばどんどん価値が上がっていくマーケットだから、転売すれば差額による儲けが出るわけだ。
しかし、住宅はそもそも高額商品。低所得者たちでは手が届かない。そこで、特殊なローンが注目された。

それが、サブプライムローン。他のローンに比べ金利が高い代わりに、低所得者でも組むことができるローンのことだ。ローンを組んだって、それ以上に転売による儲けが出るバブルという状況だったために、これがどんどん組まれていった。ちなみに、もちろん当時の人々はバブルだとは知らない。弾けて初めて、それがバブルだったと人々は知るのだ。

そのサブプライムローンを展開していたのが、リーマンブラザーズという大手の証券会社だった。米国内でも相当な規模で事業を行っていた。
リーマンブラザーズはサブプライムローンを使って、証券化商品を積極的に売り出した。

例えば、Aという人がBに金を1万円貸すとする。Aはもちろん、現金1万円でBに渡してもいいのだが、それ以外の手段もある。それは、様々な金券や商品券である。
とあるデパートの商品券5千円分、図書カード3千円分、鉄道の乗車券2千円分、トータル1万円だ。この商品券詰め合わせによって金を貸すのである。金利が10%であれば、Bは返すときに1 万円分のレストランお食事券と1000円分の割引券で返す。

金融で言えば、様々な会社の株式や 国の国債の詰め合わせである。そのような実際のお金ではない、証券などの形で金融を行うものを証券化商品という。

リーマンブラザーズは、その証券化商品にサブプライムローンを織り混ぜたのだ。
リーマンブラザーズがA社に対して1億ドルの融資を行うとする。その際、1億ドルの詰め合わせをつくる。
トヨタやGM、VWなど有名自動車メーカーの株式5000万ドル、日本や米国の国債4000万ドル、そしてサブプライムローン1000万ドルといった感じの詰め合わせを作り、低所得者向けのローンというリスクを感じさせるローンでも目立たなくさせるのだ。

さて、そんな証券化商品を売り出していたリーマンブラザーズだったが、住宅バブルの崩壊が起こると急激に事態は雲行きが怪しくなる。
低所得者たちが住宅を売れず破産し、大量のサブプライムローンが返済されない紙クズ、つまり不良債権となったのだ。これをサブプライムローン問題という。
リーマンブラザーズからサブプライムローンを含む形での証券化商品による融資を受けた会社は、サブプライムローンの分だけ別の形にしようとリーマンブラザーズに迫った。リーマンブラザーズは、手元に大量の不良債権を抱え、取引先からその処理を迫られる。
手に負えなくなったリーマンブラザーズは米国政府に救済を求めた。しかし自由主義を標榜する政府はそれに応じず、リーマンブラザーズはついに自己破産申請を行った。

その瞬間、各社の手元のサブプライムローン、そしてリーマンブラザーズに対する債権がすべて不良債権となった。事業規模の大きいリーマンブラザーズだったため、多くの企業が同時に負債を抱えた。そのため、それらの企業はさらに他の企業から借りていたお金を返済できなくなった。するとそれらの企業も不良債権を生じ、さらに他の企業も、といったようにドミノ倒しのごとく連鎖していった。

損害を受けなかった企業も取引をするような安定した状況ではないと取引そのものを控え、経済は収縮。
この世界的な経済の収縮によって、世界全体で不況が始まった。

1873年恐慌、1929年恐慌に並ぶ世界三大恐慌のひとつ、2008年恐慌の訪れである。


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