夢主と考える国際経済シリーズ
−苦労人ドイツと頭痛の種



中国の下支えもあって、何とか世界経済が建て直しつつあった2009年。

EUもアメリカも日本もホッと一息ついたところで、とんでもない爆弾が落とされた。


「ごめん…俺ん家、借金、4%、嘘…」

「…なんだと?」


EUに関係なくすべてのヨーロッパの国が集まった経済会議にて、ギリシャが珍しく話し始めた。嫌な予感がして、ドイツが低く問い直す。


「どういうことだ?」

「ほんとは…13%…残高、113%…」

「はぁあああ!?!?」


フランスが叫んだ。
もともとEUは、国債の発行を年間GDP比3%以内、債務残高を60%以内としていた。これをconvergence criteriaと言うが、あまり守られていないのも確かだった。
それでも、ギリシャは年間にして4%ほどと報告していたはずだ。

政権交代によって、前政権の隠蔽が明るみに出たのである。

今、ギリシャは年間13%、残高113%もの借金にまみれていたのだ。


何が起こるのかを正確に把握したアルレシアは、ガタリと音を立てて立ち上がる。同じタイミングでイギリスも立っていた。そして、2人とも携帯を耳に当てていた。


「「円を買え!今すぐにだ!!」」



***



ギリシャ危機をきっかけに始まったユーロ危機は、2017年になっても出口が見えていない。EUの中心であるドイツは、2010年から現在にかけて、頭痛をもたらす国がある。
それは、ギリシャ、アイルランド、スペイン、ポルトガル、イタリア、イギリス、バルト3国、チェコ、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、ロシア、ウクライナ、トルコ、スイス、日本、アメリカである。ほぼ世界の主要国だ。可哀相で仕方がなかった。

まず発端となったギリシャの粉飾決算は、2010年1月に明らかになった。EUによって支援が行われたが、それはスペインやポルトガルへも波及するリスクが高まった。
5月にはニューヨーク株式市場でダウ平均が終り値で300ドル以上値下がりする暴落を記録、日経平均も9000円前後を推移することとなった。
いったいなぜここまで深刻化してしまったのか。それは、単一通貨ユーロが抱える潜在的な問題にあった。

本来、通貨はその国の中央銀行で発行される。変動相場制のもと、様々な政治・経済的要因によって通貨は変動し、それに基づいて金融政策を展開し、調整できるのだ。
しかしEUは違う。ユーロを採用するユーロ圏は、ドイツにある欧州中央銀行、ECBにおいてのみユーロが発行され、金融政策もECBが決定する。そのため、欧州各国の国内事情をすべて反映しているわけではない。つまり、変動相場制による自然な調整が行われないのである。
そうなると、経済事情が異なる裕福な国と貧しい国との間で政治的圧力がそれぞれ異なる方向に働くことになる。こうして、ユーロ圏における問題解決が難しくなるのだ。


「あ、あかん、住宅バブル弾けてもうた…!まだリーマンショックの借金返せへんのに〜…!」

「国債ぎょうさん有りすぎてアンニュイやわぁ〜、みんなお金貯めてくれへんし〜」


まずやらかしたのは、イベリアの2人だった。スペインとポルトガルは、リーマンショックを切り抜けるためにECBから多額の支援を受けた際、多額の国債、つまりは借金を発行した。
このような場合に、普通の国は通貨を刷るか金融政策を弄ることで対応する。しかし、ユーロ圏の2人は勝手にお金を刷ることも金融政策を決めることもできない。
そうなると、自国のポテンシャルだけで切り抜けなければならないのだが、スペインは住宅バブルの崩壊と銀行がGDP比40%分の金額を不動産に融資していたために、国内経済が瀕死だった。ポルトガルは人々が銀行にお金を預けないため、手元にお金がない。

特にスペインはトータルで600億ユーロ以上の財政緊縮を行ったため、子供や失業者への手当がどんどんカットされ、失業率は20%に達した。


「ドイツ〜、俺もう我慢できひんのやけど」

「何言ってるんだ、もっと削れるものを削れ」


金を出す側のドイツ国民は、ざる会計の国に自分達の税金がばら蒔かれるのが我慢ならず緊縮を求める。一方、スペイン国民は税金が社会保障ではなくドイツへの返済に当てられることに不満がある。
このような政治的圧力の違いがユーロ圏を分断した。

ドイツ側にはこの他にフランスとオランダが入る。
スペイン側にはポルトガルやギリシャだ。

こうしてPIIGSと呼ばれる国の、国債や行政機関発行債(これらを合わせてソブリン債という)が債務不履行になるリスクが高まった。これを欧州ソブリン危機と呼ぶ。


109/163
prev next
back
表紙に戻る