夢主と考える国際経済シリーズ
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「こ、このままじゃ日本が…!よしG7集合!みんな手持ちの円を売るんだ!」

「しっかりしろ日本!後でスコーン送ってやっから!」

「殺す気かイギリス…俺も出来うる限りの支援をする」


ドル、ポンド、ユーロが買われ、円が売られる。少しでも円安に持っていくのだ。これを友情介入、またはトモダチ介入という。

「気に食わねえことはあるアルが、それとこれとは別アル。我が助けるアルよ!」

「アジア通貨危機の恩返しなんだぜー!」

「日本君、僕の家の石油や天然ガス、安くしとくね!」

「日本さん!私が全身全霊で支援するネ!」


中国、韓国、ロシアと隣国勢はいち早く支援を開始し、台湾に至っては国民からの募金だけで50億円を拠出してみせた。
かつて日本が支援したASEAN、南米、インドや、まだまだ貧しいネパールやアフガニスタン、アフリカ諸国も申し出た。
「あの震災が起きたとき、私たちは確かにひとつの人類でした」という言葉に代表されるような、世界的な支援の輪である。


さて、そんなリベラルなムードが世界に溢れた一方で、実は非常にリアリストな国である日本は、次のステップを踏もうとしていた。
2012年末に政権交代し、翌2013年。アベノミクスの始まりである。


「私の円高はまだまだ深刻で、震災の傷も癒えない中で非常に厳しいのです」

「それなら仕方ないね!認めようじゃないか皆!日本の円安誘導を!」

「ありがとうございます」


その直後、ドカンと1発、日銀からバズーカが放たれた。世に名高い日銀砲の炸裂である。
本来なら許されないような大規模な緩和。異次元緩和と称されるその量的緩和は、毎年80兆円もの国債を買い入れることで円をばら蒔くものだった。震災からの復興という大義名分が、世界の同情のもとまかり通り、日本の緩和を成功させたのである。

こうして1ドル70円代という壊滅的な円高から、80円、90円と順調に円安になり、ついに120円にまで達した。
9000円を割った株価は2万円が視野に入った。
ここまでは日本の計画通りだったが、誤算が生じた。デフレ脱却のため、円安によってインフレを起こそうとしていたのだが、それが起きなかったのだ。

そもそもインフレと聞くと、かのドイツマルクやジンバブエドルを連想させる。
特にジンバブエドルは結局、1京ジンバブエドル=1ドルというとんでもないレートで切り上げられることになった。
しかしそれはハイパーインフレであり、普通はインフレの方がデフレより良い。それは貨幣錯覚による。
物価が上がれば賃金も上がり、物価が下がれば賃金は下がる原理によって発生する現象だ。

例えば、物価上昇率、つまりインフレ率が5%で、賃金の上昇率も5%だったとする。このとき、物価も給料も5%上がっているわけだから、実際の給料に変わりはない。
もしもインフレ率5%で賃金上昇率が8%だった場合、差は3%であり、この分だけ賃金は増えていることになる。
給与明細に表示される金額以上に増えているということだ。
この明細に書かれる金額を名目賃金といい、差額の3%を足した分を実質賃金という。

仮にインフレ率5%で名目賃金の上昇率が3%だった場合、賃金上昇率は2%少ない。この場合、実質賃金は2%下がっている。
しかし、明細に書かれている名目賃金は上がっている。本当は給料が2%下がっているのに、名目上3%増えていることに惑わされ、給料が増えていると勘違いしてしまうのだ。これを貨幣錯覚という。

デフレのときは実質賃金が上がっても名目賃金が下がるため、これとは逆の貨幣錯覚となる。つまり、給料が下がっていると勘違いする。

経済は心理だ。消費者がポジディブに勘違いしてくれた方が経済が上手く回り、うまくいけば実態が追い付いて実質賃金も上がる。
インフレになれば、実質賃金はともかく名目賃金は必ず上がるため、消費者はポジディブな貨幣錯覚を起こし、消費に良い影響が出る。政府はそれを狙っていた。

しかし、アメリカのシェール革命が邪魔をした。


「聞いてくれ日本!俺の家のシェール地層の石油が技術革新で採れるようになったぞ!これで世界一の産油国だ!」

「…おめでとうございます…」


これまでは採掘不可能だったシェール層の天然ガスや石油がアメリカで採れるようになると、中東のOPECを無視してボコスカ産油するようになり、あっという間に世界一の産油国になったのだ。

OPECはシェア縮小を恐れ減産を見送った。その結果、シェールオイルによって世界的に石油が余ることが予想され、一気に資源価格が暴落した。

日本は円安によって資源輸入コストが増大することで電気代が上がり、結果としてインフレになる流れを描いていた。
しかし資源価格の暴落はコストを抑え、インフレにならなかったのだ。輸出企業からすれば円安と資源コスト下落によってウハウハだが。


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