夢主と考える国際経済シリーズ
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日銀は負けじと円をばら蒔き続け、今や国債の4割を保有し金融市場を牛耳ることができるほどになった。マイナス金利まで始め、もう打つ手がない。
そんな日本の量的緩和は、アメリカでもリーマンショック以降取られていた方策だ。それぞれリーマンショックと震災で大打撃を受けていたから許されることだった。
ここで、欧州に目を戻すと、こちらは相変わらずユーロ危機に追われていた。しかも、ドルと円が量的緩和により安くなっていたため、相対的にユーロは上昇、スペインなど財政がまずい国は輸出すら伸びなくなり虫の息だった。
そんな中で、ハンガリー危機に端を発するスイスフランの上昇が、スイスに無制限介入を決意させていた。
「我輩は1ユーロ=1.5スイスフランのレートを堅持する。これを超えることは許さない。そのために無制限に介入する」
「おっ、それならポンドからスイスフランで国債建てとこ」
「お兄さんもスイスフランで融資受けよーっと」
1ユーロ=1.5スイスフラン以上のフラン高になるならば、スイス政府が無制限に介入することになった。それはスイスフランが非常に安定することを意味し、ドルや円、ユーロからスイスフランに乗り換える動きが加速した。
特にEUやアメリカでは、個人、企業、国に至るまでスイスフラン建てによる融資をすることで不安定な世界経済の 中で少しでも安心を得ようとしていた。
しかしスイスは大変だ。
スイスフランはただでさえ安全通貨として人気で、それがさらなる安定を約束されたため、さらに人気が増したのだ。
当然それはフラン高を招く。
その分、スイスはユーロを買い続けた。
するとスイスの手元には、どんどん今後どうなるか分かったもんじゃないユーロが増え続けることになった。それはそれで不安だし、邪魔だ。
そもそもスイスのブランドはどれも付加価値が高く、ちょっとフランが高いくらいではそう値段に変わりがない ハイブランドばかりだ。それならば、リスクのあるユーロを増やすのは得策ではない。
「ねぇ〜、そろそろお兄さんたちも量的緩和すべきじゃない?」
「俺もそう思っていたところだ」
ちょうどそこへ、ECBの量的緩和観測が出た。
ユーロが量的緩和になればますますユーロが値下がりし、スイスフランが高くなる。まだ決断がまとまらないまま、スイス銀行は定例会見を開くときになってしまった。
「我輩の政策に変わりはない」
その数日後、スイスは無制限介入停止を宣言。
一気にスイスフランは暴騰し、ユーロは下落した。
ある通貨で借金を建て、その通貨が値上がりすると、借金そのものも連動して膨らむ。
つまり、スイスフランの暴騰によって、これまでスイスフランで借金を建てた個人や企業の抱える借金が跳ね上がったのだ。
その日、世界中で人々が首を吊り、スイスフランは殺人通貨の名を欲しいままにすることとなった。
これをスイスフランショックという。
そして2017年。
「ドイツ、俺EU抜けるから早く交渉しようぜ」
ブレグジットを決め、しかもハードな自由貿易を妨げる形での完全な離脱を求めるイギリス。
「ドイツ〜もう緊縮できひんて〜」
「あ〜しんどぃわぁ〜」
「ドイツ〜!俺のモンテ・パスキの不良債権どうしよう!」
「…ねこ……」
緊縮と政治の空白に混乱するスペイン、決め手に欠けるポルトガル、大手銀行の危機が止まらないイタリア、まだまだ支援が必要なギリシャ。
「もうだめだ…死ぬんだ…」
「あばばば」
「ぼ、僕の家の人口が減っていく…!ってラトビアーー!!」
「EUうるさいし〜」
不況に喘ぐ自殺率世界ワーストのリトアニア、ロシアに削られそうなラトビア、人口流出が深刻なエストニア、EUに懐疑的なポーランド。
「ドネツクちゃんもうやめて…!」
「制裁続けるならこのパイプラインは動かせないなぁ」
紛争の収まらないウクライナ、圧をかけ続けるロシア。
「なんで私がテロリストの難民なんて受けいれなければならないんですの!?でもお金は下さる!?」
「俺も難民とか無理だしEU氏は好きじゃないなぁ。でもお金はください」
「わ、私も頑張ってるんです…!これ以上の難民は…!」
「ハンガリーはもう限界です、いい加減抜本的な策を取りなさい」
「EUほんとに役立ってんのかおいら分かんなくなってきた」
「金ねぇからどうしようもねーんだわ!」
EUに懐疑的なチェコ、スロバキア、限界の来ているハンガリーとオーストリア、社会不安の高まるルーマニアとブルガリア。
「てやんでぃ、もうおめぇらなんか知らねぇからな!」
EUを見限り、ロシアとイランと結ぼうとするトルコ。
「壁を作るぞ!費用はメキシコ持ちでね☆」
「アジアへのアクセスが欲しいんでしょう?せいぜい譲歩してください」
「我が金出してやるアルよ、その代わりEUは我のもんアル」
ワケわからない大統領になったアメリカ、好き勝手し続けるリアリズム国家日本、拡大する中国。
「今年の選挙はまだ大丈夫やざ」
「俺んとこもギリ大丈夫〜」
選挙を前に極右が台頭するオランダとフランス。
そして、同様に極右が台頭しながら、これらの国にこんなことを言われているのが、ドイツである。
静観していたアルレシアは、思わず心配して声をかける。
「あー、ドイツ?大丈夫か?」
「…なぁ、アルレシア。いきなり、会議場でサンバの格好をして躍り狂いたくなることはないか」
「だ、誰か!こいつやべぇぞ!!!」
ドイツの頭痛は収まる兆しがない。