旧拍手お礼文
−マフラー



冬も深まるヨーロッパ、会議を終えた国々は、会場から出た瞬間寒さに凍えた。

「これくらいシベリアに比べたらマシだよ」

「僕らも平気ですよね、スーさん」

「ん。寒ぐはね」

若干名は例外だ。

「じゃあ全員気をつけて帰るように」

ホスト国のドイツが、今だ上官っぽく言い、それぞれ返事をしながら帰路につく。

「だめだ寒い」

アルレシアはコートのポケットに手を突っ込み震える。

ヨーロッパ内陸や北欧・ロシアは特に寒く、同じ緯度でも海沿いの国と内陸では寒さが違う。

最近、日本でその内陸地域の羽毛を使った布団が流行っているそうだ。

商魂に恐れ入る。


アルレシアの隣にはオランダが歩くが、オランダは体つきがいいからか、そう寒そうにしていない。

「筋肉か、筋肉なのか」

「なんや」

ばしばしとオランダの腹筋を殴ると、オランダは力を込める。

「うわ、えげつない固さ」

「他に表現ないんか」

オランダは呆れたように、「だいたい、」と続ける。

「マフラーも手袋もなしに、1月のベルリンに来るんはどないなことや」

「返す言葉もねえな」

「潔さは認めたる」

はぁ、とオランダにため息をつかれ、アルレシアはむっとした。

「たまたま忘れただけだ」

「たまたまが今日っちゅーのがアウトやざ」

「うるせえな」

完全にむくれ、年甲斐もなく頬を膨らませて怒っているアピールをするアルレシア。

これでオランダより1000歳以上年上なのだ、詐欺である。

しかし、末期のアルレシア廃にかかれば"ギャップ"という言葉の下に補完される。

「あ、もしもしノルウェー?なんかオランダが俺が馬鹿過ぎてアウトだって、酷いよな。うん。今から?」

「何やってんねや」

スマホを耳に当てて喋れば、余裕そうなオランダも焦った顔になる。

それに気を良くして機嫌を直す。

「嘘だよ。寒さ理由にお前ん家にこのまま押しかけるつもりなんだ、から…」

あ、言っちゃった。

アルレシアはしくじったと舌打ちを鳴らす。

オランダを見上げれば、至極楽しそうな表情。

今日は不調だ。

(絶対あとで国債買わせる。ユーロ準備率高めて言い返す)

そう復讐を誓うが、まず先に凍てつく風が剥き出しの首を撫で縮こまる。

「寒い…」

「マフラー貸したろか」

「いくらだよ」

「アルレから金とらんわ」

オランダはトレードマークとも言えるマフラーを取ろうとする。

「いやいいって、」

「今日はストールマフラーやなくてカシミア100%やけど」

「え、それすげえ、じゃなくて、お前が寒いだろ」

「俺は平気や」

「オランダに風邪引いて欲しくない」

「こっちの台詞や」

マフラーを巡り、優しさがぶつかるという睨み合いが起きる。

オランダは譲らないだろうが、アルレシアも譲りたくはない。

しかしカシミアは恋しい。

「じゃあ二人で巻くか」

「身長差で巻けん」


越えられない壁、現る。

もはやここまでか、負けるしかないのか、と思ったところで、アルレシアは今年最初のひらめきを得た。

「きた!」

「なんや」

「オランダが俺をおんぶすればいい。そうすりゃマフラーは巻けるし俺は普通にマフラー巻くより暖かい」

「俺の負担でかいやろ」

「…、嫌か…?」

眉を下げて悲しげに見上げる。

服の袖を掴み、寒さで顔は赤みがかっており涙目。

「乗りねま」

す、とオランダは屈む。

(ちょろいちょろい)

この"おねだり"の成功例は枚挙に暇がない。

が、何でこうも効くのかは分からない。

少しの謎を心に留め、アルレシアはオランダの背中に負ぶさる。

「行くで」

立ち上がるオランダの軸はぶれず、ぐらつかない。

安心してマフラーを外し、二人の首に巻いた。

カシミアのなめらかな質感が風を防ぎ、オランダの体温が残るマフラーや、触れ合う場所から熱が伝わる。

凍え切った体にじーんと温もりが広がる。

顔を首筋に埋めると、立てたオランダの髪が肌を擽り、整髪料とオランダの匂いが混ざった香りを吸い込んだ。

定期的な歩調の振動に揺られ、温もりと匂いに包まれ、疲れもあって一気に眠気が押し寄せた。

「眠いんか」

「ん…」

「寝てええ」

「ありがと…」

持ちこたえていた意識を呆気なく手放し、アルレシアは眠りについた。








「ねえ、何あの羨ましい状況」

「俺に聞くな髭!」

「ちょっかいかけよっかな」

「…やめとけ、アルレシア起こしそうなやつが近づくと全力で睨んでやがる」

「美女と野獣?」

「それ二人から袋だたきにされるぞ」

「今日のイギリスは優しいな、気持ち悪っ」

「なんだとこら!」

「(静かにしねま!)」

「「こわっ!」」


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