旧拍手お礼文
−バレンタイン(世界)
その世界会議は、なにやら異様な雰囲気だった。
アメリカ東海岸時間2月14日、集まった国、特に欧米がそわそわしている。
アルレシアは普段通りなのだが、あのドイツでさえどこか落ち着かない様子だ。
始まる前、テーブルに着いたアルレシアは、周りの様子を見て疑問に思う。
いつも通り、右側にオランダ、左側にデンマーク、ノルウェーも座る。
今日はアルレシアはかなり早く着いたため、欧米の国たちがすでに集まりそわそわしているのが不思議でならなかった。
他の地域では、アジアから日本が到着しているくらいで、ほとんど来ていない。
「…、なぁオランダ、」
隣のオランダに声をかけると、会議室の空気に緊張が走った。
「なんや」
「……今日、なんかあんのか?」
ぼかして聞いてみれば、ガタッと、大きな音が響いた。
「アルレシア!?まさか今日のこと知らないの!?」
フランスが立ち上がってわなわなと震えた。
「え、え、なに?」
アルレシアもさすがに頬が引き攣る。
「…、アルレ、今日はバレンタインやざ」
オランダは脱力して答えた。
「あぁ、そういやそうだな。それが?」
知らないとは時に残酷だ。
はっきり聞き返すアルレシアに、多くの国たちが机に伏せた。
そんな様子に若干引きつつ、アルレシアは困ったように周りを見渡し、日本と目が合う。
目で説明を求めると、日本は重い口を開いた。
「みなさん、アルレシアさんからのチョコを期待していたんだと思います」
「俺から?なんで?」
再び言葉が容赦なく各国をえぐる。
日本はまずいと思いながら言葉を選んだ。
「…、理由はみなさんそれぞれでしょうが…とりあえず期待していたところを落とされた気分なんでしょう」
「だってバレンタインってキリスト教の聖職者だろ?俺キリスト教じゃねえし。今日はただの平日なんだけど」
「何言ってるんだいアルレシア!」
そこにアメリカが大きな声を上げる。
「何のためにわざわざ今日を世界会議に選んだと思ってるんだい!?」
「まさかお前…」
アルレシアは呆れてため息をついた。
「それでお前ら早く来たのか」
ようやく顛末をすべて理解すると、伏せていた国たちが起き上がって口々に主張する。
「その通りだっぺぇ…俺すげー楽しみにしてたのによー…」
「あんこと同じは気に食わねぇけんど、俺もだ」
「お兄さんなんて朝から食べないで来たのにー!」
「お、俺は別に期待なんかしてねえんだからな、」
「素直になったらどうなんだいイギリス、俺はめちゃくちゃショックなんだぞ!」
「ヴェー、俺も楽しみだったのになぁ」
「しゃあないから親分から逆チョコしたる!」
「ポジティブ過ぎだろちくしょー」
「じゃあ僕も逆チョコするからアルレシア君僕の家おい…ひっ!ベラルーシ…!」
ざわつく国たちに、アルレシアは軽く驚いた。
「どんだけ期待してんだよ…え、つかオランダとかドイツもか」
堅物な二人を見れば、視線を泳がせながら肯定する。
「俺も期待はしとった。まぁ、そんなことやろうとも思っとった」
「俺も分かってはいたが…少し期待してしまった」
楽しみにしていた、期待してしまった、などまるでアルレシアに非があるようで、少し釈然としない。
だが可哀相にもなった。
一方日本は、このままではアルレシアが意図せず大量のチョコを用意しなければならなくなり、大変ではないかと気付く。
予定していなかった出費としてはかなりでかいはずだ。
「あー…そういえばアルレシアさん、私の国では本命と義理、という二種類のチョコがありまして、」
騒いでいた国たちがぴたりと静まる。
「恋愛の意味においてですが、一番好きな人には特別なものを、そうでない人には普通のものを渡すんです」
「へぇ」
別にアルレシアに好きな人がいるとは思っていない。
これを言った後の国の反応が大事だ。
「じゃ、アルレの本命は俺でねえか」
そのノルウェーの発言をきっかけに、他の国たちも立ち上がり、先程のように口々にそれは自分だと主張する。
その隙に日本はアルレシアに近寄り、耳打ちする。
「このまま、じゃあ全員なし、と言えば収まりますよ」
「さすが、日本の空気は読めるだけあるな」
「少しそれは違いますが…まぁこれで大丈夫でしょう」
アルレシアはおかしそうに笑う。
「なんか、あほくせえな」
「…否めません」
日本も微笑んだ。
「ま、仕方ねえから全員に郵送してやるよ」
「無理はなさらなくていいんですよ、やはりキリスト教の行事ですし」
「いや。世話にはなってるからな。ここでは日本の言ってくれた通りにしておさめるけど」
いたずらっぽく笑ったアルレシアに日本は、あぁまた彼らこの人のデレに落ちるな、と近い未来を予感した。