旧拍手お礼文
−kotatsu(蘭、日)



日本には、一度足を踏み入れたら二度と出られない恐ろしい魔境が一家に一か所あるという。
そんなとんでもない国だっただろうか、とアルレシアは話を聞いたオランダを訝しんだのを覚えている。

半信半疑で2人で向かった日本の家にて、アルレシアはそれが真実だったと痛感する。



***



「あぁ…こたつのことですね」

「KOTATSU…?」


出迎えてくれた日本に尋ねると、日本は合点したようにうなずいた。オランダと2人でいきなりやってきたにも関わらず快く上げてくれる。まだ靴を脱ぐのは慣れないが、オランダに倣って日本の家にお邪魔した。
廊下を歩きながら、日本は事情を説明してくれた。


「必ずしもすべての家にある時代ではなくなりましたが、私の家では当たり前に人々が知っている存在であるのは確かです。そして、二度と出られない、というのも間違いとも言い切れませんね…」

「お前の家そんな物騒だったか…?」

「そんな化け物みたいに…ただの家具ですよ、こたつというのは」


そう言って、日本はある部屋の障子を開ける。畳の部屋の真ん中には、ローテーブルが鎮座しており、なぜか机の天板の下から布団が床を覆うように垂れている。


「正確には、机に暖房機能を持たせたものを言います。様々なタイプがありますが、机の下に電気ヒーターがあり、その熱を布団の内側に閉じ込めているんです」

「あぁ、なるほど」


このタイプは、天板と骨組みが分かれるもので、骨組み部分にヒーターがついている。骨組みと天板との間に布団を挟んで使っているようだ。


「あの中に足入れたら最後やで、アルレ」

「…どういう意味で言ってんのかは分かった」


快適さで、ということだろう。今だアルレシアはオランダの言っていることはオーバーな表現でしかないと思っている。


「まぁ確かに、ドイツさんですら出るのに一苦労でしたね…」

「え、マジで?マジで?」


思わず二回繰り返した。
あの心身ともにムキムキなドイツが、純粋理性批判なドイツが、ただの家具の誘惑に抗えなかったというのだ。

ドイツの話を聞いてから現実味を持って受け止めたアルレシアにオランダはムッとする。


「さっきから言うとるやろ」

「ジョークかと…I amsterdam的な」

「では私はお茶を用意しがてら、少し上司と電話して来ますので、良ければ入っていてください」


日本はそう言って部屋を出ていく。礼を言ってから、アルレシアは恐る恐るこたつに近づいた。オランダは逡巡もなく向かう。
そしてオランダが先に畳に腰を下ろすと、その長い足をこたつの布団の中に入れた。


「…はぁぁーー………」

「うわ、めっちゃ緩んでる…」


あのオランダが完全に気を緩めていた。いつも隙の無いクールな男だが、隙だらけだった。なんと恐ろしいものなんだ、とアルレシアも近づき、畳に座る。
そして、足を布団の中にゆっくりと突っ込んだ。

途端、足全体が柔らかな温かさに包まれた。そう、包まれるような温もりなのだ。ヒーターからは熱が当たっているように感じられ、それがじーんとするような温もりとなって伝わる。
その温かさは、足しか中に入っていないのに、背筋から体全体に広がるようだった。


「…あぁぁなんだこれ…なんだこれ…!」


これは出られない。ここから外気に足を出すという事が耐えがたい苦痛のように感じられた。
恐る恐る入れたので少ししか入っていなかった足を、伸ばして奥まで進める。
すると、オランダの足とぶつかった。ちょん、と触れ合うと、オランダがぐい、と押し返してくる。負けじとアルレシアも押すと、くだらない競争が始まった。
ぐいぐいと押し合っているうちに、ふと目線を上げると、同じタイミングでこちらを見たオランダを目が合った。年甲斐もなく遊んでいたことに気づき、2人してふ、と苦笑した。


「このままアルレとずっとここにおりたいわ」

「俺も」


苦笑は落ち着いた笑みに代わる。静かな空気になった部屋の外、日本は「入ってもいいんでしょうか…」と少し呆れていたと後に語った。


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