旧拍手お礼文
−ドイツ史用語格好よすぎ問題(西、ロマ、普)
●ジャンプラネタ
近代くらい
ヨーロッパ史はロマンでいっぱい
そろそろ次年度のワインの輸入について考える時期が来ているから、という名目で、アルレシアはスペインの家を訪れてワインのテイスティングをしていた。最近のスペインワインの質はどんどん高くなっている気がする。
そんな商談とは名ばかりのワインを楽しむ時間をスペインと過ごしていると、プロイセンがやって来た。こちらはアポなしのようで、スペインの家に来るなり聞いてもいない自分の昔話をし始める。
もっぱらドイツ騎士団時代の話で、その頃スペインはレコンキスタやら大航海時代やらで忙しく、東方の事情はあまり直接知らなかったようだ。
一方でアルレシアはかなり直接見ていた歴史なので、プロイセンが話を盛っているのを始まった、と思いながら話半ばに聞いていた。
「これは俺がまだドイツ騎士団として聖剣を振るっていた時代の話だ…皇帝や王で構成されたドラゴン騎士団が、俺たちに戦いを挑んできたんだ」
「いやお前がポーランドにちょっかいかけむぐ、」
語るプロイセンがアルレシアの隣に腰かけているものだから、横やりで事実を述べようとすると、プロイセンはノールックでアルレシアの口を塞いだ。この野郎、と思って肘打ちするも、調子に乗っているプロイセン様は効いていない。
ちなみにドラゴン騎士団とは古い形式の集団安全保障のような緩い同盟で、当時の欧州の主要国家の君主が参加していた。スペインはまだアラゴンとカスティリャに分かれていた。
そのドラゴン騎士団の中で、合同していたポーランドとリトアニアに対してプロイセンがちょっかいをかけ、その前から色々揉めていたポーランドたちはここで蹴りをつけようとばかりにプロイセンをボコボコにした。タンネンベルクの戦いである。
それ以外にプロイセンがドラゴン騎士団相手に全面衝突を起こしたことはないし、そもそもそれほど強い同盟ではなかった。たとえそうであったとしても、東方まで派兵する力を持つ国は当時まだなかった。
すると、スペインが後ろで箒を持つロマーノに気づいた。アルレシアもそちらを向くと、ロマーノはブツブツと言っていた。
「あんなの全然興味ねーぞちくしょう…皇帝や王で構成された騎士団とかありえねーだろかっこよちくしょう…」
「あかん!格好いいのセンスが合ってもうたんや!」
「なんだあれ」
プロイセンから逃れたアルレシアが尋ねると、スペインはため息交じりに答える。
どうやら、ロマーノは一時期流行した「俺TUEEE」冒険小説にハマってしまい、そんなロマーノにスペインがドン・キホーテを読ませるという荒療治でこちらに引き戻したものの、いまだその後遺症が残っているとのことだった。
基本的に文化というものは、流行するとどんどん激化していき、やがてその反動文化が発生してそれが主流となっていく、というサイクルを繰り返す。冒険小説も一時期は主人公の設定がインフレしていたが、ドン・キホーテの登場によってかなり冷めた印象がある。
するとそれに気づいたプロイセンが、おもむろにロマーノに向かって囁いた。
「帝国宮内職(ライヒスケメラー)」
「っ!」
それにロマーノはびくりと反応した。気を良くしたプロイセンは畳みかける。
「ホーホマイスター騎士団長、リヴォニア帯剣騎士団、リミニ金印勅書、聖界諸侯(キルヒェンフュルスト)」
「か…かっこ…ちが…ちくしょ…!」
そんなプロイセンの口を、スペインは思い切り鷲掴んだ。その目は笑っていない。
「ちょっと黙ろか」
「うい」
帝国宮内職はブランデンブルク選帝侯が有していた神聖ローマ帝国の役職、ホーホマイスターは昔のプロイセンの上司、リヴォニア帯剣騎士団は現在のエストニア・ラトビア北部の非キリスト教徒の改宗と虐殺を行ったドイツ騎士団の一部、リミニ金印勅書は大空位時代を解決するための皇帝選出に関する勅令、聖界諸侯は領土を持つ司教など聖職者のことである。
反応してしまうロマーノは可愛らしいというか、確かにいじり甲斐がある。プロイセンは恐らくはた迷惑なお節介だろうが、アルレシアは完全にいたずら心が沸いた。
「ミュンスター千年王国」
「ちぎっ…!?」
「アウステルリッツの三帝会戦」
「や、やめ…」
「ブラウンシュヴァイク=リューネブルク公」
「ちょおアルレまでやめたって!!」
「でもポルトガルも格好いいよな。喝采革命とか、リオデジャネイロ大遷都とか」
「かっ…かっこよくなんて…」
「国境防衛都市エルヴァスとかな」
「アルレ!」
子分セコムの親分がちょっと怒るが、ポルトガルの感性は隣国だけあって通じる部分があるのか、スペインも否定しづらそうだ。その間ずっと口を塞がれるプロイセンがそろそろ苦しみだしたが、アルレシアは軽く笑うとワイングラスを傾ける。
プリプリと怒るスペインには、後で「お前ん家のワインがうますぎて酔った」と言えば簡単に許してくれるだろう。