小ねた集
−boundary flexibility(蘭、白)
●ボーダーレスEU
オランダとベルギーの国境変更
「…あれ、お前らどうした、そんな深刻そうな顔して」
「あっ、アルレ兄ちゃん」
「アルレ…」
仕事の話をしにオランダの家へ向かうと、そこにはベルギーがいた。
最近は難しい話はドイツやオランダの独断場のため、ベルギーまで深刻な顔になることはない。
「あんな、ウチら、国境変えようかと思うねん」
「なんでまた」
ベルギーはいつものかわいらしい顔でそう言った。どういうことか2人に聞くと、ベルギーが続ける。ちなみにこういうとき、オランダは黙っていることが多い。
「ウチとお兄ちゃんとの南側の国境はな、マース川に沿って決めたんよ」
マーストリヒトの近くにある川のことだ。2人の国境となっている。
「その川、国境決めたあとに治水工事して流れを変えたんや。そしたら、川の対岸にちょっとだけ領土がある、みたいなんがウチらの間にいくつかできてもうて」
マース川が蛇行していた頃、流域ではしばしば水害に悩まされた。そこで蛇行をまっすぐにするための治水工事が行われた。
すると、蛇行していた頃に定めた国境だけが残ってしまい、直線となった河川の両岸に飛び地のように点在することになったのだ。
「ほら、その…お兄ちゃん家って、いろいろ自由やんか」
「まぁ、そうだな」
麻薬売買が当局の管理下に置いて許容される国である。風俗業も当局の管理下のもと自由になっている。
「せやから、マース川の向こうのウチの領土で、こう、若い子ぉらがヒャッハーしとるんよ」
「俺ん家の川の向こうもほうや。ほれやと警察の目が届きにくいんやざ」
「なるほどな、警備が甘いからそれぞれヒャッハーすんのか…」
それぞれの警察の目が届きにくい立地を生かして治安が悪化しているのだという。それで、国境を変えるということになったようだ。
「せやから、ウチとお兄ちゃんで領土取り換えっこして、川を国境にすることにしたんや」
「へぇ…話し合いで国境変更とか、なかなか聞かねぇな。お前らっぽいわ」
そう笑うと、ようやくベルギーにも笑顔が戻り、オランダも表情を緩めた。
「にしても、あそこはどうすんの?バールレ=ナッサウ」
オランダ領内にあるバールレ=ナッサウという小さな町には、バールレ=ヘルトフというベルギーの飛び地が存在する。
飛び地の中に飛び地があるというところもあり、オマーンとUAEとの国境と並んで世界で最も複雑な国境として知られる。
もともとベルギー側の伯領だった地域の飛び地が、ベルギー独立時にそのままベルギーとともに独立してしまったため、飛び地となった。
家の中に国境線があるというのはザラで、そういうときは正面玄関がある国を住所登録するのだという。
「あそこは…観光地やさかい、もうええかなって」
「ほやな、あれはあれで儲かる」
「お兄ちゃん…」
すぐ金の話する、とベルギーは呆れるも、ベルギーとて同じ気持ちだろう。なんだかんだ商人気質なのだ、実に兄妹である。
ただ2人の言う通り、バールレ=ナッサウは観光地化され多くの観光客がやってくる。
しかし、ベルギーで法が変わればオランダ側に玄関を移し、さらにオランダで法が変わればベルギーに移し、という風に都合のいい方に転居する店もある。
それは少し問題なのだが、商魂たくましい姿勢に苦笑する現地当局である。
「ほんと、こんな柔軟な国境どこにもねぇよな」
しみじみとするアルレシアは海上国境しかなく、少し羨ましくも思うのだった。
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2016年12月
オランダとベルギー、話し合いで国境変更へ
BBC