小ねた集
−unyielding things(世界)



●ヨーグルト論争



「なんでぇ!まだ言ってんのか!!」

「お、お前こそいい加減諦めろよ!これは譲れねーんだわ!!」


いつもの世界会議にて、ざわつく室内の一角からそんな怒鳴り声がした。
たまたま近くにいたアルレシアは、またやってるよ、と辟易とする。


「俺のヨウルトが起原だっつってんだろぃ!!」

「俺のキセロムリャコだ!!」


誰にでも譲れないものはある。
そう、ヨーグルトの起原のように。


***


ヨーグルトとは、生乳に乳酸菌が入ることによって生まれる発酵食品である。
生乳はどの文明でも飲まれていた上に乳酸菌は常在菌であるため、全世界で生まれているのだ。

それでも最古のものというのはあって、概ねそれはペルシア、カフカース、トラキアといったオリエント世界である。
生乳であればいいため、中央アジアは馬の、インド文明では水牛の乳であることも多い。

特に、トルコ生まれのヨウルト、ブルガリア生まれのキセロムリャコ、カフカース生まれのケフィアが有名だ。
さらに、ブルガリアがロシアとトルコで領有を交代したこともあるため、なおさらどこが起原といっていいのか分からないのである。

世界的には、トルコ語のヨウルトからヨーグルトになったため、言語でいえばトルコ優勢かもしれない。しかし食文化はブルガリアの方が有名だし、一大消費国の日本ではブルガリアの名を冠したヨーグルトが非常に売れている。
実際、5月6日のゲオルギオスの日にブルガリアは家庭用ヨーグルトの生産を開始する文化がある。


「日本は俺の名前使ってるから俺に賛成だよな!?」

「私ですか!?」

「あん?日本はヨーグルトっつってんだから俺派だろうがぃ!!」


ブルガリアとロシアに迫られる日本。その肩をアルレシアはポンと叩く。


「さすがにブルガリアとヨーグルトを同じ商品名に組み込むのはまずいって。お前のそういうとこ、自業自得だぞ」

「うっ…耳に痛いですね…」


そこへ、反対側の肩を叩く者がいた。冷気を纏うロシアだ。


「日本君、ケフィアとカスピ海ヨーグルト間違えてるもんね?もう違い分かってないでしょ?」

「ひぇ…」


色々と混ざった文化は日本のモダンカルチャーの面白い点だが、本場に突かれると痛い日本である。


「つか、キセロムリャコもヨウルトもケフィアもカスピ海ヨーグルトも、全部菌の種類違うよな。同じモンじゃなくね?」

「それは」

「言っちゃ」

「いけねぇ」


アルレシアの何とはなしの言葉は、ロシア、ブルガリア、トルコにゆっくりとかき消された。


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