小ねた集
−fear of beer



●酒豪国家と酩酊夢主


「今日は飲み明かしますわよ!」

「マジで勘弁してくれ…」


愚痴を聞いて欲しいと殊勝な頼み事をチェコにされたのが昨日、それに応じてとある酒場にやってきてまさか、と口を引き攣らせたのがついさっき。
てっきり軽くワインでも飲みながら相談事なのかと思っていたのだが、どうやら本当に単に愚痴を言うだけらしい。それをつまみにビールを飲むわけだ。
しかもちょっと飲んでから来ている。

お嬢様なくせにやりことが常にえげつないチェコのことだ、今の政権のように過激な飲み会にはなって欲しくないとちょっとブラックなことを考えてしまうのも致し方ないだろう。

チェコは、2015年度の1人当たりビール消費量世界一を記録している。なんと年間、大瓶にして225本を消費している計算だ。
チェコの悪いところは、一緒に飲んでいる相手を潰しにかかることだ。本人にその気があるなしに関わらずである。

かつてアルレシアも潰れたことがある。というか、アルレシアが潰されるのはチェコ相手のときがほとんどだ。他のメンバーとと飲む時は節度をわきまえるからだ。大昔何度かあったような気がする。

そうして強引に飲み会を勃発させられ、あぁ、終わった、とアルレシアは遠い目になった。



***



「そしてこうなったと」


少し前にアルレシアにSOSを出されて家を出たドイツとプロイセンは、目の前の光景に唖然とした。


「もうこの際ドイツでいいから助けて」

「それが人にものを頼む態度かまったく…」


いまだドイツが好きではないスロバキアだが、アルレシアに引っ付かれている状況ではそうも言えない。


「ひっく…オーストリアさんはぁ…私が守りますぅ…」

「ぐう……」

「おいおいマジか坊ちゃん…」


その隣では、オーストリアが机に伏せて寝ており、オーストリアに抱き付くように背中に頭を乗せてハンガリーが寝ていた。寝言を言っているようだ。
大きな机には無数のビール瓶が散乱している。

一角には、なぜかチェココルナがメモとともに置かれ、それをドイツは手に取った。


そこには、『私仕事がありますので先に帰らせていただきます。スロバキアを呼んでおきましたのでご自由にどうぞ』と書かれていた。


「スロバキアを日本の雑誌ラックみたいに…しかもこれ絶対に足りないだろう…」


物価の安いチェコだ、コルナに大した価値はない。ユーロ支払いだろうこの店では端数になるかどうか。


「諦めろヴェスト、あの女、伊達に窓から人投げて人類の歴史変えてねぇよ」

「欧州の女性陣はどうなっているんだ…!」


それにしても、と2人はスロバキアにくっつくアルレシアを見る。ここまで酔ったところを見るのは初めてだ。
アルレシアは、猫よろしくスロバキアの胸元にすり寄り甘えていた。スロバキアは恐らく飲んでいないのに顔が真っ赤だ。

ちなみにオーストリアはドイツと並んで世界3位、ハンガリーは32位、スロバキアは16位だ。


「東欧の他の連中に引き取ってもらうか」

「あいつらがそんな優しいことする玉かよ」

「否めん…」


ポーランドは6位、リトアニアは8位、ルーマニアが10位でエストニアが11位と、東欧はかなり酒豪国家が並ぶ。ラトビアも18位であるし、ブルガリアも21位だ。しかしここでオーストリアたちを運ぶほどの優しさはないのが東欧の東欧たるゆえんである。


「仕方ない、オランダを呼ぶか」


ハイネケンの国オランダは24位、ベルギーが23位なのでちょっとだけ妹の方が強い。
そこで体格的にもオランダを呼ぼうとドイツが提案したが、プロイセンに制される。


「まぁちょっと待てよヴェスト。アルレシア、こっち来い」

「んん、」


プロイセンが呼ぶと、意外にも簡単にアルレシアはやってくる。上記した顔に潤んだ目、確かに破壊力がすさまじい。解放されたスロバキアは、「プロイセンに解放されるなんて」とやはりブラックなことを言っていた。
プロイセンのところまで千鳥足でやって来たアルレシアは、そのまま力なくぽす、とプロイセンの腕の中へ。プロイセンはまんざらでもなさそうだ。


「…何をしているんだ兄さん」

「いや〜、酔ったアルレシアは可愛いなって思ってよ。オランダ呼んだらあいつに独占されるだろ」

「ほやのぉ、分かっとるなら今すぐ離れるんが利口やざ」

「ヒエッ…」


すると背後から冷気とともにそんな声が落ちた。ドイツとプロイセンが振り向くと、そこには3人の姿。


「アルレが酔ったとこ、俺ら見たことあるさかい心配しとったんや」


13位のスペインの笑顔は、目が笑っていない。その横にはオランダがおり、後ろにはベルギー。


「ウチんとこにチェコちゃんから連絡きてなぁ、すぐお兄ちゃんと親分と来たんよ」

「はよ離しねま」

「くっそこのトマトセコムめ…!」

「別にお前らでもなくとも俺1人で事足りるが」


そんな3人に、芋兄弟もさっと対峙した。すでに飽きたアルレシアはプロイセンから離れ、再びスロバキアのところで寝息を立て始めた。


「え、西欧怖いなあ」


しみじみと言いながら、スロバキアは静かに眠るアルレシアの頭を撫で、自身も見ないふりをしようと狸寝入りを決め込んだ。

ちなみにその後ドイツ兄弟とスペイン一家はビールを競うように飲んで勝負したが、全員ダウンした。
その終戦間際、本格的に寝たスロバキアからアルレシアを引きずり出したのは、なんとセーシェル。


「今のうちに恩売っておくぞ〜、ていうかこんな楽しいことするなら呼んでよ〜」


ビール消費量ランキング世界2位である。


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