小ねた集
−chocolate rhapsody



●仁義なきチョコレート戦争


近年、日本政府の涙ぐましい努力のおかげか、はたまたインターネットによる流行かは分からないが、日本の現代文化の世界への拡散は急速なものとなっている。
ハロウィンの渋谷の様相を見て、ハロウィン嫌いのロンドン市民によるハロウィン消費が数倍になるなど、本場が欧州にあるものすら日本風のものが受け入れられるようになった。

さて、バレンタインといえば欧米はそれぞれの特徴を持っている。男性から女性、女性から男性、家族、友人、恋人、送り送られる人も様々なら、花やクッキーなど送られるモノも様々だ。
日本においてチョコレートが主流で、なんならホワイトデーという独自行事まで生み出したことは、最近欧米諸国でも知られるようになってきた。
別に日本風にしようなどという動きは皆無であるけれど、人気のアニメや漫画にやたらそういう描写があるために、イベントとして欧米オタクたちはそれなりに日本風のバレンタインに好意的だ。

日本ではチョコが飛び交う、という知識くらいなら知っている者も増えた今、アルレシアもまた、バレンタインという行事が根付いていない社会ながら「チョコレートねぇ」とこの時期には思うのだ。


「チョコ!?今アルレ兄ちゃんチョコ言うたよね!?」

「うお、ベルギーお前どこから…」

「チョコ言うたらウチやろ!」


独り言として言った何気ない言葉は、騒がしい欧州会議の席上でベルギーに届いてしまったらしい。
テンション高くアルレシアのところに飛んできたベルギーの大きな声は、当然他の国にも聞こえて来た。


「し、商機じゃ〜!であえであえ〜!!」


金持ち国家の商業チャンスを即座に見出したためか、おもむろにフランスがそんなことを言いだしこちらに迫る。


「いやぁお兄さんのとこのチョコでしょ!!」

「チョコレートは吾輩の家の文化、これは譲れん」

「僕の家のチョコレートも有名ですよ」


ずい、と迫るフランスに続き、スイスとルクセンブルクもやってくる。さらにはオーストリア、ドイツもそわそわとしていた。
自分の迂闊さを呪うアルレシアである。


「いうてもウチに叶わんて!!」


そんなメンツの中でも、やはりベルギーは強い。ワッフルとチョコはベルギーの代名詞だ。


「ゴディバ!ノイハウス!カカオ油脂まで法で規定したウチほどのチョコレート大国はあらへん!」


世界のゴディバを擁するベルギーは、街中にチョコレートブランドがある。ブリュッセルのサブロンなどはもうチョコレート広場である。
ノイハウスもプラリネを生み出したことで知られる。そのほか、ピエール・マルコリーニのようなロイヤルブランドからBbyBのような新進気鋭のものまで幅広くチョコレートブランドが展開される。


「カカオ油脂のとろけるような味わい…それに包まれたヘーゼルナッツの香り立つプラリネ…ウチの家のチョコに勝るモンはないで!」

「ふん、吾輩はミルクチョコレートと溶けるチョコを生み出した、いわばチョコの故郷である。派生形を生み出したくらいで何を言っている」


それをばっさりと斬るのはスイスだ。言う通り、いわゆるチョコ菓子はスイス発祥なのである。ミルクチョコレートを生んだのはゴディバに並ぶブランド、リンツ。リンツのチョコによって、はじめて口の中で溶けるチョコが生まれた。また、トリュフチョコを生んだのもスイスのレダラッハというブランドである。


「確かに伝統も大事だけど〜、チョコのブランド化や文化的側面はお兄さんの功績も大きいよね」


そんな2人に負けじと張るのはフランス。天下のジャン=ポール・エヴァン、ピエール・エルメなど超有名ハイブランドをパリから世界に展開している。テイクアウトするものよりも店の中で席について食べるようなチョコレートが知られている。


「姉さんやフランスさんの文化を反映した僕の家のチョコもどうぞ」


美食国家として知られるルクセンブルク、そのチョコ大国としてのブランド力は、旧市街のカフェで見られる。チョコレート・ハウスや大公宮御用達のナミュール、オーバーヴァイスなど、世界大のブランドではなくとも、そこへ足を運ぶためにルクセンブルクを訪れるだけの価値がある。


「あー…俺の家のチョコレートも、まぁ、一応勧めて置く」

「ザッハトルテは不動の地位にありますので」


ブランドというよりはチョコレート文化が隆盛するドイツとオーストリアもクオリティは高い。オーストリアのザッハトルテは、発祥の地であるザルツブルクのホテルやカフェ・トマセッリのものがとりわけ有名だ。


「え、いきなりアピールされても困るんだけど…」


と、こうして各国になぜかプレゼンされたアルレシアだったが、別にチョコが欲しいわけでもない、こんな迫られても困惑しかしなかった。
ただ、ここまでチョコの話をされると食べたくなるのも確かだ。


「じゃあ誰か今持ってんの?」


そこで今持っているのか聞いてみれば、全員首を横に振る。いたずらにチョコ食べたいという気持ちにさせられただけのアルレシアは、ちょっとキレてコーヒーを乱暴に飲み干した。



―――
管理人はブルージュにしか店がないデュモンというブランドが大好きです。せめてブリュッセルにあればいいんですが、ブリュッセルにすら店がなく、世界遺産の街ブルージュで職人気質を大事にする方針のようです。ブリュッセルから電車で1時間ほどで行けるので、ぜひ行ってみてください。


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