君が好きと言ったから
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馬車が引っ切りなしに通る道を進み、やがて目の前が開けた。

「これがテムズ川だ」

「へえ。結構広いな」

街を突き刺すように流れる大きな川。

この先は北海だ。

この川を下って少し東に行けば、すぐアルレシア領海に出る。

そこを僅かでも南に行けばオランダの領海だ。

アルレシアは故郷、そして50年をともに過ごしたオランダへの寂寥を少し感じ、思わず川を無言で眺めてしまった。

イギリスは複雑そうにそれを見て、そっと目を逸らす。

「…この港から、真っ直ぐお前の家に帰れる。仕事で用があるなら、ここを使えよ」

「…あぁ」

「いつでも…帰れるんだからな、お前は」

そう言ったイギリスをアルレシアは見遣る。

「…帰って欲しいのか?」

「っ、ちげえよ」

「知ってる。別に、俺はお前といるのが嫌なわけじゃない。なんだかんだ、お前の側は心地好いからな」

穏やかに微笑むアルレシアに、イギリスは一瞬泣きそうになったが、すぐそんなそぶりを隠す。

「…、帰るぞ」

「おー」

二人は川べりを後にし、再び市街地に入る。

すると、アルレシアはあるものを発見した。

「なんだあれ…」

小さな屋台があり、香ばしい匂いを漂わせている。

「なんか菓子じゃねえか」

イギリスも分からないようで、近くへ寄ってみることにした。

中年の女性がニコニコしながら、パンを焼いて砂糖を塗したものだろう、簡単な菓子を売っていた。

「あら、イギリスさんじゃないの」

近寄ったイギリスを見て、女性は驚いたようにし、だがすぐ笑顔に戻る。

「ぜひ食べていって下さい」

値段は非常に安い。

下町らしい屋台だ。

「イギリスさん、恋人?」

隣のアルレシアを見て、女性は茶目っ気たっぷりにウインクする。

「んなっ!」

慌てるイギリスに、アルレシアは呆れて「ちげえよ、」と返す。

「あらぁ、残念。お似合いなのに」

「イギリスも俺も男だ」

「それがいいのよ!」

楽しそうな女性は、いつかのアルレシアの上司を彷彿とさせた。


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