メクレンブルクと中欧史
−プロローグ
●現代
プロイセン×主
爽やかな風が湖畔を駆け抜ける。
湖には青空と白い雲が映り、近くの花畑の香りと土の匂いを風が運んでくる。涼やかな空気はどこか澄んでいて、その中に切り立つように古城の華やかな尖塔がいくつも聳えていた。
"7つの湖の都"と称されるシュヴェリーンの中心にある湖。そこにかかる橋の装飾が施された欄干に腕をつき、青年はぼんやりと長閑な景色を眺めていた。
名前はメクレンブルク、今はもっぱらレイスと呼ばれることが多い。
この古都シュヴェリーンを州都とする、ドイツ北東部のメクレンブルク=フォアポンメルン州の象徴であり、化身であり、かつてメクレンブルク大公国だった元国だ。
西ポンメルンとともに州となった今は、メクレンブルクというよりはレイスという個人名が主な呼び名である。ザクセンやブランデンブルク、バイエルンは、縮小こそしたが場所はほぼ変わっていないため、そちらの名前で呼ぶ。ニーダーザクセン州などは、いまだにハノーファーという旧名で呼ぶこともある。
他に個人名を呼ぶやつといえば、と思ったところで、その帳本人が突然声を掛けてきた。
「おいレイス!俺様が遊びに来てやったぜ!もてなせ!」
「…びっくりした」
「全然そう見えねぇからな!?」
突如として現れる癖でもあるのか、この男、プロイセンはニョキっと現れる。銀髪に赤目、レイスより5センチほど高い身長、しっかりとした体格。一応、ドイツ地域の兄弟で長男を自称する男だ。
「ギルうるさい…」
「聞こえねー!」
「うるさいハゲ」
「ハゲてねーわ!!」
「聞こえてんじゃん…」
個人名をギルベルト・バイルシュミットという。レイスもそうだが、バイルシュミット姓はドイツ兄弟全員に共通する。
「…で、何の用?」
「用がなきゃ来ちゃいけねーのかよ」
「そんなこと言ったことある?」
「ねーな!お前、俺のこと大好きだもんな〜」
「…まぁね」
「だろ!……って、え!?」
慌てたギルベルトはレイス同様に欄干に凭れて、こちらを覗き込んでくる。うっとうしい。
「お前がそんなこと言うとはな、明日は雪か…?」
「5月も末なんだけど」
「分かってるわ!…はぁ、まっ、今日は実際用がある。ルートが呼んでたぞ、連邦会議なのに来ねぇって」
「…やば、忘れてた。電話してくれればいいのに」
「出ねぇでぼーっとしてたやつに言われたくねぇだろーよ」
携帯を確めてみれば、確かに着信があった。この国全体を顕すドイツ、個人名ルートヴィッヒからの着信だ。ギルベルトが長男なら、ルートヴィッヒは末っ子である。
今日はドイツの州が一同に介して会議をするのだが、すっかり忘れていた。
「ヴェストファーレンがぶちギレてたぞ」
「あいつとあんま関わりなかったからなぁ…ブレーメンとかハンブルクは慣れて諦めてくれんのに」
「それでいいのかお前」
北ドイツ、特にハンザ組はレイスの適当なところを知っているため怒らない。東ドイツだったブランデンブルクとザクセンもそうだ。南西のやつらは同じドイツと言えど関わりが薄く、壁の向こうだったため、最近よく怒られる。
「まぁね。どーしよ、もう少ししたら行く」
「すぐ行けよ…」
「せっかくギルが来てくれたのに」
久しぶりに会ったのだ、もう少し話したい。そう思って言えば、ギルベルトは顔を赤らめてそっぽを向いた。
「…知らねーかんな、怒られても」
「ルートは何だかんだ優しいし」
大丈夫だろう、とレイスは伸びをした。リゾート化してから、のんびりさに拍車がかかった気がする。こんなんだから工業下手だったのかな、などと思いながら、再び美しい景色に目線を戻した。