メクレンブルクと中欧史
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11世紀まで続いたヴァイキング時代を終えて、ようやくスカンディナヴィアは落ち着いた国家を樹立させた。ノルウェー王国、スウェーデン王国(フィンランド含む)、そしてデンマーク王国である。
デンマークはヴァイキングの中心として、一時は北海帝国を築いた。しかし、それを完成させたクヌート大王の死後、混乱の中で成立したエストリズセン朝は王権が弱く、12世紀後半には王位継承戦争に突入した。
しかしそれを収めたヴァルデマー1世は王国を建て直し、2代後のヴァルデマー2世は領土を大幅に拡大。
13世紀頭には、エストリズセン朝成立時に分裂したシュレスヴィヒ伯や、神聖ローマ帝国のホルシュタイン伯、そしてメクレンブルクやポンメルンなど北ドイツのバルト海沿岸部を軒並み支配したのである。
そのときのことを、レイスは強烈に覚えている。
「よっ!初めましてだな!」
「え……どちら様……?」
ヴィスマールやロストックと、シュヴェリーンのレイスの家で商談をしていたときに、デンマークはやって来た。
構える巨大な斧は、いつでもこちらに降り下ろせるよう緊張している。それに気付いたレイスは、そっとロストックたちの前に立ちはだかった。特に強いわけでもないし、ぼうっとしているとよく言われる。それでも、ロストックたちは、血は遠縁ながらも弟なのだ。たとえリューベックの方が弟たちは血が近く、一種コンプレックスのような自分とは見た目が違うゲルマン系でもだ。
「俺はデンマークってぇんだけどよ!」
「…何の用」
「俺ん家、来てくんろ?」
それはお願いのようで、命令だ。軍事力を持たない帝国都市の弟たちはびくりと震える。間違っても、ここで勝てるとは思えなかった。
「…後ろの二人は、帝国都市でハンザ同盟だ。連れてくなら俺だけにして」
「メクレン兄さん、」
怖がりながらも心配そうにするロストックの頭を撫でてやる。
「どうすっぺがなぁ…っておわぁっ!?」
「…、逃げろ!!シュトラールズントとリューベックに走れ!!」
咄嗟に、レイスは近くの樽に入っていた水をデンマークの目もとにぶっかける。その隙にデンマークを突き飛ばし、二人に叫んだ。一瞬怯んでから、二人は何とか家を出て走り出した。
「やってくれんでねぇの…!」
「うわっ、」
デンマークは低く言うと、レイスを床に押し倒して組み敷いた。その目はギラリとしている。レイスはまだ幼少期から抜けきっていない、人間の13歳くらいな体格なのに対し、デンマークはすでに17歳くらい。その体の下から抜け出ることはできそうもなかった。
ヤバい殺される、そう思ったレイスは途端に恐怖でいっぱいになった。こんな本格的に攻められること自体初めてだったこともあり、ガタガタと震えてしまう。守るべき弟がこの場を離れ、奮い立たせるものがないこともあった。
そんな恐怖から、じわりと目に涙が浮かぶ。それを見たデンマークは、目をパチクリとさせたあと、ばつの悪そうに体を離した。
「あー…わり、そんな怖がらせるつもりじゃなかったんだけどよ、」
「え……」
「…泣かねぇでくんろ。まっ、この街の湖みてぇでキレイだげどな」
困ったようにふっ、と笑うと、デンマークは立ち上がる。特に攻撃をしてくるでもない、急な態度の変化に驚いた。
「一応、俺ん家には来てもらうけんど、んな怖がらなぐていいかんな」
「…ん、」
差し出された手を掴み立ち上がる。悪いヤツではないらしい。ニカッという人好きのする笑顔に、レイスはそんなことを思った。