メクレンブルクと中欧史
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「俺様が挨拶に来てやったぜ!ひれ伏せ!!」
「うわ、今度はなに…?」
自宅で寛いでいると、少し前を彷彿とさせるような突然の訪問があった。いきなりなんだと荒々しく開かれた扉の方を見ると、甲冑に白いマント、黒い十字架を着た同い年くらいの少年がいた。銀髪と赤い瞳、ゲルマン系らしい風貌だ。
「…誰、」
「俺はドイツ騎士団!東北の異教徒を改宗させに来た!」
「はぁ…俺はメクレンブルク」
「うわ、マジでこっちの方は名前なげぇな!ブランデンブルクといいブラウンシュヴァイクといいよぉ」
挨拶するなり難癖をつけてくる。少しムカッとしたが、とりあえず我慢してやる。
「わざわざこっちまで挨拶しに来るとか律儀だね」
「戦略的にお前ん家通ることありそうだしな!ハンザ同盟の繋りもあるしよ」
「あっそ」
確か、ドイツ騎士団はクールラントとプロイセンを領有し、リトアニアやリヴォニア、ルーシの異教徒たちを改宗させるため出向いていた。改宗させた土地を領有しては教皇にそれを認めさせている。騎士団のくせに不良だった。
ただ、神聖ローマ帝国に属するメクレンブルク地域には関係のないことで、ただの挨拶なら一層興味が沸かなかった。
「まぁ、好きにして」
「お前反応薄くね!?この俺様が直接出向いてやったんだからもてなせよ!」
すると、ドイツ騎士団は強引に押し入ってきた。厚かましいにも程がある。騎士団の慎ましさはどこにいったのか。
本当にキリスト教徒なのかと訝しむと、レイスはその少し丸みを帯びた右頬をひっぱたいた。
「いってえ!?」
「………」
「無言!?てめぇ喧嘩売ってんのか!」
突然ビンタされたドイツ騎士団は、怒りに満ちた声で掴みかかってくる。それに、首を傾げた。
「左の頬差し出さないの?」
「はぁ!?…って新訳聖書か」
右の頬を叩かれたら左の頬を差し出せと聖書にはある。ドイツ騎士団はそれに気付いて黙りこんでしまったが、次にハッとする。
「いや、他に試せんのあんだろ!?つかなんで試した!?」
「こんな不良騎士団知らない…」
「不良じゃねぇ!!」
「同じこと教皇の前で言ってくればいいのに」
「…んのやろぅ…」
後ろめたいのはドイツ騎士団の方なのだ、口論で負けるわけがない。それにしても、ツッコミにキレがあって面白く、レイスはクスリと笑った。
「面白いヤツだね」
「…お前は変なヤツだな」
それに毒気を抜かれたように、ドイツ騎士団はタメ息をついて、口角を緩めた。
***
それからちゃんともてなしてやって会話をしていると、30年ほどレイスの方が歳上だと分かった。しかし30年などあってないようなもの、ほぼ同い年の国として、ちょっとした親近感があった。しかも、ドイツ騎士団はその暴れぶりに教皇庁も聖地もビザンツ帝国もドン引きしているらしく、浮いていた。「ひとり楽しすぎるぜ」とカッコつけていたが、完全に除け者である。
「つーか、お前名前なんてーの?」
「…メクレンブルク、じゃなくて?」
「個人名。なげぇよ、それ。ドイツ騎士団ってのもなげぇしさ」
メクレンブルク、ドイツ騎士団と名前が長いため、面倒なのだそうだ。
なんだそれ、と思いつつ、素直に答えてやることにする。
「レイス、っていうんだ」
「レイス、な。俺はギルベルト、好きに呼ばせてやる」
「じゃあ、ギルで」
徒名というやつだろう。ギルベルト自身初めてだったらしく、少し口をもじもじとさせていた。これは、いわゆる友達、というものなのだろうか。
レイスは初めての感覚に戸惑いながらも、悪い気はしなかった。