メクレンブルクと中欧史
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追放されたマグヌスの息子が王を勤めるノルウェーは、スウェーデンへの反感からデンマーク側につき、オランダ地域の連合艦隊はその制裁としてノルウェー王都ベルゲンを破壊し、ノルウェーを殴った。
オスナブリュックやブレーメン、ケルンなど西側の都市もユトランド半島西岸に攻撃をしかけ、いよいよリューベック率いるハンザ同盟本隊もバルト海からシェラン島へと連合艦隊を差し向けた。
プロイセンなどの艦隊が次々とメクレンブルク沿岸に集結すると、シュレスヴィヒやホルシュタインなども一緒になって、レイスたちはバルト海へと乗り出す。そして、コペンハーゲンのあるシェラン島に上陸した。
レイスはギルベルトとともに兵士たちを率いて一路コペンハーゲンを目指す。国王ヴァルデマー4世は北ドイツ外遊中であり、王都に王はいない。コペンハーゲンは人質のようなものだ。
それでも激しい戦闘が予想されるため、若干緊張していると、ギルベルトが「ケセセ」と笑い出す。
「お前緊張してんの?」
「…そりゃ、どっかのならず者騎士団とは違って戦争しないもので」
「おいそれ誰のことだ」
「ドとイとツがつく騎士団」
「俺じゃねぇか!」
そうやってじゃれていると、少し緊張が解れる。まったくもってギルベルトにそんなことへの配慮があったとは思えないが、戦闘国家らしく堂々と構えるギルベルトといつものようにふざければ、リラックスできた気がする。一緒に来てくれて良かったな、とは思った。
「デンマーク軍、接近中!」
すると、偵察から一報が入った。戦闘に向けて意識を研ぎ澄ますと、すぐに開けた場所でデンマーク軍と邂逅した。どちらも目視しあい、ある程度近づいたところで止まる。
デンマークとノルウェーが剣を構え、それに相対するようにスウェーデン、ギルベルト、レイス、その他ハンザ同盟たちが並ぶ。
「ここは昔っから俺ん家の領土だ!出てってぐんねぇど容赦しねぇ!」
「やがまし。原因はおめぇだない」
「スーの言う通りだっぺ…」
「ノル!?どっちの味方なんだっぺ!?」
剣をこちらに向けて威嚇するデンマークに対して、スウェーデンがもっともなことを言うと、デンマーク側であるはずのノルウェーが頷く。北欧3王国は不思議な関係だとレイスは思う。
「なぁ早くやろーぜー!プロレスでもなんでもよー」
「ほんとに騎士かよギル…」
「なんか言ったかこら」
騎士はいつでも高潔に戦うのだ。そんな血気盛んな感じを全面に押し出すことはしない。ただ、早くやりたいのは皆の共通するところだったらしい。
デンマークだけでなく、スウェーデンやハンザ同盟たちも剣を抜いた。いよいよだ。「進め!!」という両軍の指示のもと、兵士たちは咆哮を上げて前進した。
***
戦ううちに、スウェーデンはノルウェーとの一騎討に入り、ハンザ同盟たちは他の兵士たちとの戦闘に入った。そして、レイスはデンマークの相手となる。
「なんでリューベックじゃなくて俺が…っ!」
デンマークの剣を跳ね返し、懐に入ろうとしてまた剣に押し返される。互いにそれを繰り返し、レイスは息が上がっていた。
「もう、限界なんでねぇのっ!」
「うる、さい!」
ガキン、とけたたましい音を立てて互いの剣がぶつかり合う。力わざでは勝てない、すぐに力を流すように剣を滑らせ、回り込んで剣を振りかぶるもまた防がれた。
「あん時のごど、忘れてねぇっぺ」
「…誘拐のこと?」
「んだ」
100年以上前のことを引合いに出されて呆れるが、私怨は戦いでは力になる。剣を押し返されて、ついよろめいた。
「っ、!」
「もらった!」
その隙を逃さず追撃をしかけるデンマーク。咄嗟に目を瞑ると、甲高い音とともに剣は降りてこなかった。
「え……」
「よそ見すんなアホ!」
レイスの前に立ちはだかるのは、ギルベルト。その白いマントと黒い十字架の背中が、デンマークを見えなくさせていた。どうやら、ギルベルトがデンマークの剣を防いでくれたらしい。
「ギル…っ、」
「…もう大丈夫だ」
いつもの破天荒な子供っぽいものとは違う、落ち着いた声。無意識に安心してしまうようなものだった。思わずへたりこむと、ギルベルトはデンマークと激しく剣をぶつからせた。その動きは、到底常人にはできない。
まさに騎士団、東欧最強の軍人集団だった。