メクレンブルクと中欧史
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1370年、シュトラールズント条約によって戦争は終わり、デンマークはハンザ同盟に対して広範な特権と莫大な賠償金を払った。
領土こそ失わなかったものの、失意のうちにヴァルデマー4世は崩御した。
その娘マルグレーテは、スウェーデンに追放されたマグヌスの息子であるノルウェー王ホーコン6世に嫁いでいたが、その二人の息子オーロフ2世が、ヴァルデマー4世の死とともに1375年、デンマーク王に即位した。
1380年にはホーコン6世が亡くなり、オーロフ2世はノルウェー王にも即位。これよりナポレオン戦争後1815年のウィーン条約に到るまで、435年に渡るデンマーク=ノルウェー王国が成立する。マルグレーテは母として、デンマーク=ノルウェーの摂政という事実上の最高権力者となった。
その後、北欧とメクレンブルクは複雑な血縁の交差の中で目まぐるしい上司の交代を経験する。
亡くなったヴァルデマー4世の長女でマルグレーテの姉であるインゲボーは、メクレンブルクのハインリヒ3世に嫁いでいた。ハインリヒ3世は、スウェーデン王であり次期メクレンブルク公のアルブレクトの兄である。
その二人の子供であるマリアは、メクレンブルクの隣国、ポンメルン公国のヴラディスラフ7世に嫁いだ。
つまりマリアは、マルグレーテにとってもアルブレクトにとっても姪にあたる存在なのである。
北欧の覇権を目指すマルグレーテと、スウェーデン王アルブレクトに不満を抱き始めた貴族たちはそこに注目した。
まずマリアとヴラディスラフ7世との間に生まれたエーリクを、マルグレーテは1388年にノルウェー王に即位させた。スウェーデン貴族たちもマルグレーテに同調したために、アルブレクトはついにメクレンブルクの兵を率いてスコーネ周辺でデンマークとの決戦を行った。
どこまでも平野が続く肥沃な大地、そこにデンマーク軍とメクレンブルク軍が対峙する。つい数年前に戦ったばかりのデンマークとレイスも先頭で剣を構えていた。
デンマークの後ろには、さらにノルウェーとスウェーデンもいる。まだスウェーデンはメクレンブルク公が王を兼任しているが、実質デンマーク側である。どう考えても勝てない。
「降参するなら今のうちだべ、メクレン」
「じゃあそうしよっかな」
「そーけ………んっ?」
煽りに乗ってくると思っていたらしいデンマークは、やる気のないレイスに呆気に取られる。
「…俺ん家統治してんの実際には共同統治者だし…俺戦争向いてないし…」
アルブレクトはスウェーデンのことばかりにかまけ、メクレンブルク公国では弟のマグヌス1世に統治させていた。マグヌスの死後、1384年より正式にアルブレクトがメクレンブルク公を継承したが、今度は甥のアルブレヒト4世を共同統治者として立て、メクレンブルク公国を任せていた。
ちなみにアルブレヒト4世は、インゲボーとハインリヒ3世の息子であり、ヴラディスラフ7世と結婚したマリアの兄にあたる。つまりはマルグレーテの甥でもある。
そしてアルブレクトの死後は息子のアルブレヒト5世が即位予定だ。どうせアルブレクトがどう頑張ってもスウェーデンとは王室が分かたれる。
「い、いいのけ?このままだと、俺とノル、スヴェーリエ、フィン、ポンメルンが同じ国になんだぞ?」
デンマーク=ノルウェー、スウェーデン、スウェーデン領フィンランド、そしてポンメルンは自動的に同君連合としてすべて同じ国家となる。西隣のシュレスヴィヒとホルシュタインを覗き、周りを囲まれることになるのだ。
「別に、もう戦争懲りごりだし。それに…」
レイスは剣を鞘に納めると、北欧の3人に近付く。デンマークもつられて剣を下ろし、3人とも驚いたようにこちらを見詰める。
「そろそろ、皆と仲良くしたい。せっかく上司の血は繋がってるんだし」
切っても切れぬ位置関係なのだ。そもそも、レイスはこの不思議な3人のことが好きだった。戦わなくていいなら戦いたくない。
「…ん、じゃあ、仲直りだな!」
デンマークは快活に笑うと、剣を仕舞って握手を差し出す。それに応じて、ようやく仲直りできたのだった。
こうして著しく低い士気でアルブレクトは敗北しヴィスビューへ亡命、1395年にノルウェー王エーリクは父ヴラディスラフ7世からポンメルン公位を継ぎ、1396年にデンマーク=ノルウェー王に即位。
そして1397年、ついにカルマル同盟が成立した。