メクレンブルクと中欧史
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周りがそんな大変な思いをしながら改宗しているのを横目に、レイスはなんとも穏便にことが進んでいた。
北欧やギルベルトが政治的な意味合いを強くして改宗を進めていたのに対して、レイスは領民がまず改宗していき、それを見たメクレンブルク=シュヴェリーン公ハインリヒ5世が「いいんじゃない?」とそれを認めて宗教改革は終わったのである。
もちろん最初は皇帝に遠慮して黙っていたが、ザクセンやプファルツ選帝侯が公言するようになると、だんだんとオープンになっていった。そして1532年に公式に改宗を宣言したのである。
「おいレイス!お前もついにルター派の良さに気付いたんだな」
「言っとくけど領民はお前より早く流行に乗ってたよ」
「なっ、べ、別に帝国の流行から遅れた辺境なの気にしてなんかねぇぜ!」
「んなこと言ってないから…」
いきなり家にやってくるなりケセセと笑うギルベルトをぞんざいに扱いながら、慣れたようにワインを出してやる。
勝手に辺境の地にいることを気にしていると暴露されても何も思うことなどない。それにレイスとて、帝国の端っこだ。
「…にしてもよ、レイス。シュマルカルデン同盟の戦争、お前どうすんの」
「…トルガウ同盟って、有効かな?」
「それはどうだろうな…」
木の椅子を軋ませながらワインを飲むギルベルトは、ふいにぐっと顔を近づけてレイスに内緒話のように聞いてきた。
隣に座るレイスはちょっと顔を離してから、自身が加盟する同盟を口にする。だが、ギルベルトは懐疑的だった。
「あの同盟がそんなちゃんとしたもんには見えねえからな」
「そうだよね、じゃあいっかな…いたずらに皇帝と敵対するのは、時期尚早でしょ」
「俺もそう思うぜ。今回は俺も見送りだ」
二人とも、プロテスタントの弱い同盟であるトルガウ同盟には参加していたが、シュマルカルデン同盟には参加していない。
そのため、戦争になっても参戦する必要はなかった。むしろ、レイスは皇帝寄りの中立に立つつもりである。
「でもまぁ、お前は戦略的にめちゃくちゃ重要だから…その…同盟とは違う形で協力してやってもいいぞ!」
「…どういうこと?」
「……結婚とか」
「結婚…ああ、上司のね。そりゃ確かにちょうどいい立地かもしんないけど」
そこで突然、ギルベルトの提案が降ってわいた。なぜか顔を若干赤らめてもぞもぞと言う歯切れの悪さが珍しい。
「それだけで結婚…?」
「あんなぁ、戦略的に重要ってことは激戦地になりかねねぇんだぞ!お前戦うの下手じゃん、だから俺が守ってやるって言ってんだ!」
「っ、ギル…」
がし、と肩を掴まれて不良騎士団に凄まれる。どうやら、案外個人的なところに理由があったらしい。赤面していたのはこれか、とレイスまで少し恥ずかしくなった。
しかし、同時に大きな嬉しさも湧き上がる。大事にしようとしてくれているのが分かるからだ。
「…うん、じゃあ、いいよ。上司に聞いてみる」
「……おう」
そうして、次期公爵のヨハン・アルブレヒト1世とプロイセン公アルブレヒトの娘ソフィーとの結婚が決まった。
ヨハン・アルブレヒト1世は、ハインリヒ5世の弟でメクレンブルク=ギュストロウ公アルブレヒト7世の息子だ。
アルブレヒト7世はブランデンブルク選帝侯ヨアヒム1世の娘アンナと結婚しており、その子供である。ハインリヒ5世とヨアヒム1世の妹ウルスラとの間に子供がいないため、このような相続となった。
つまり、メクレンブルクを統治する二人の公爵兄弟であるハインリヒ5世とアルブレヒト7世は、それぞれブランデンブルク選帝侯ヨアヒム1世の妹と娘と結婚しているのである。
さらに、ヨアヒム1世とデンマーク王ハンスの娘との間に生まれたヨアヒム2世は、ヨハン・アルブレヒト1世とともにルター派を大学で熱心に学んでいる学友である。
メクレンブルクとブランデンブルクは、このとき非常に強固な結びつきをもっており、両方ともプロテスタントの色を濃くしていた。
そこにプロイセン公国も加わったのだ。のちにプロイセンとブランデンブルクがひとつになる布石でもあった。
こうしてガチガチのルター派となったヨハン・アルブレヒト1世は、1550年にトルガウ条約に加盟した。プロイセン公国とブランデンブルクが加盟するもので、トルガウ同盟よりも結束は強い。
「これで表立ってお前のこと守れるな」
そう笑ったギルベルトに、少しドキリとしてしまったのは、致し方のないことだと思うのだ。