メクレンブルクと中欧史
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1627年、メクレンブルクはヴァレンシュタインによって占領され、シュヴェリーンとギュストロウ2人のメクレンブルク公は皇帝によって廃位された。代わりに、メクレンブルクはヴァレンシュタインに領土として皇帝から与えられることになった。それを全力でやめさせようと声を荒げたのは、他ならぬギルベルトだった。

このとき、ギルベルトも大変なことになっていた。ブランデンブルク選帝侯ゲオルク・ヴィルヘルムは、自身がカルヴァン派、妹エレオノーラはルター派のグスタフ・アドルフに嫁ぎ、枢密院はカトリック、領民はルター派という混迷具合で、そうあがいても国内の不和を避けられなかった。
特に、スウェーデン・ポーランド戦争がギルベルトを疲弊をさせた。

ルター派となったスウェーデンは、次期国王の予定だったポーランド王をカトリックであることを理由に拒否し、王位を巡る戦争状態にあった。モスクワ大公国で「大動乱」が発生すると、スウェーデン王グスタフ・アドルフがイングリアとカレリアを奪った。
ポーランドは「大動乱」にて、反体制派を支援する代わりにロシア地域をカトリックに染めようと画策していたが、それに気づいたロシアにコルコルされ、莫大な負債を負うことになった。

1625年にはスウェーデンがリヴォニアを占領し、バルト海北部の支配を固めると、翌年にプロイセンへの上陸を開始した。


「リヴォニア持ってくとかマジありえんしー!!」

「ちょっと無礼なんじゃないかなぁ!?」

「おめらがウチ来ればいんだべ」

「スーさん悪気ないんです!!」

「俺様んとこでバチバチすんじゃねぇ!!」


1626年、突然スウェーデンに占領されたギルベルトは、プロイセン公国でにらみ合うスウェーデン(およびフィンランド)軍とポーランド(およびリトアニア)軍の気迫にビビりながら叫ぶ。片や北欧の獅子、片や東欧最強国家の名将である。その戦いが苛烈なものになるということくらい容易に想像がついた。
何度も戦場になったプロイセンでは、追い打ちをかけるように疫病まで流行り、荒廃がひどくなった。しかしゲオルク・ヴィルヘルムはまったくどうすることもできず、ポーランドを支援することを言ってルター派から怒られていた。

そうやって著しく疲弊したギルベルトだったが、帝国議会の場ではそんな様子を微塵も見せてはいなかった。

広く豪華な空間で、オーストリアが中央に構える。その後ろに控えているのは、チェコ、スロバキア、ハンガリーだ。
その前に跪くレイスと、公爵位変更に批判の声を上げる諸侯たち。バイエルンですら反対していた。


「お下品です!ひとりずつお話しなさい!」

「じゃあ俺が言わせてもらうぜ!」


よく通る低い声。体格の良いギルベルトがずかずかと歩いて来ると、呆然とするレイスの前に立ちはだかる。まるで、オーストリアから守るようだった。


「ドイツの王のひとりでしかないはずの坊ちゃんよ、ちょっと越権が過ぎるんじゃねぇ?」

「当然の権利です」

「バイエルンはまだ分かる、あいつは一応選帝侯以外じゃ最高位と言ってもいいからな。でも、ヴァレンシュタインは地方貴族だ。弱い方と言えど、北欧王家や有力貴族の血をこれでもかと引くメクレンブルクの位を渡すに値する人間じゃねぇよなぁ?」


そうだ、という声が諸侯たちから上がる。選帝侯であるザクセン、ブランデンブルク、バイエルン、3人の司教領ですら。
レイスは、明瞭にまっとうなことを述べるギルベルトに心がじんわりと温かくなるのを感じたが、同時にあることに気づく。


「っ、ギル、血が…」

「いいから」


そう、僅かに血の匂いがするのだ。これは、まだ癒えるどころかまともな治療すら受けていないものである。顔色も良くない。相当苦しいのだろうに、それでも毅然としていた。


「ギル…っ!」

「うお、」


我慢ならず、レイスは立ち上がって目の前の広い背中に抱き付いた。よろめくギルベルトは、いつもならこれくらいで動じたりしない。支えるようにして抱き付くと、ギルベルトはため息をついて向きを変え、レイスを正面から抱き留める。


「何してんだ」

「別に、上司が誰かなんてどうでもいい!そんなの、どうでもいいから…ギルが苦しい思いしてる方が嫌だ…」

「レイス…」

「俺、無理はするなって言った…ギルの分まで心配するとも言った」


正面の肩に顔を埋めながら、必死に言い募る。先ほどよりも、ぐっと血の匂いが強くなった。


「…バーカ、お前守るためなら、無理したくなくてもしちまうんだよ。諦めろ」


そう言うと、ギルベルトはレイスを思い切り抱き締める。そして、ガクリとその力が抜けて、レイスともども床にしゃがみこんでしまった。意識は失っていないようだが、ギルベルトの額には脂汗が浮かんでいる。呼吸も荒い。


「ギル!」

「ただの疲労でしょう。休ませて治療した方がいいですね。あなたも」

「オーストリア…」


オーストリアは呆れたように言うと、ハンガリーを目を合わせて苦笑する。


「どうせ、この戦争が終われば一代限りの支配は終わります。あなたも、プロイセンも。それにしても、この方がこんな殊勝なことを言うとは」

「驚きだわ」


オーストリアとハンガリーに言われ、改めて、自分たちがやたら恥ずかしいことを全領邦の前でやってしまったのだと気付く。


「そういうことは他所でやってくださる?」


チェコのツンとした声が響いて、できるならそうしたかったとレイスは空を仰いだ。


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