夢主と考える国際経済シリーズ
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一方アルレシアは、しばらくそれどころではなかった。
1947年に共産党政権、右派政権、左派政権三つ巴の第二次アルレシア内戦が勃発し3つの政権が南部、東部、西部に同立する事態となり、1950年からは第三次アルレシア内戦によって3つの政権の戦闘が激化。
1953年のスターリンの死によって共産党は混乱し停戦したが、その後3年に渡り事実上の無政府状態となる。1956年にようやく選挙で左派政権が勝利し永世中立を宣言、各国はそこで左派政権を認め、内戦は終了した。
この間、ロシアの支援を受けた共産党、アメリカやイギリスの支援を受けた右派、アルレシア軍がついた左派とお互いに兵力が強かったため国土は荒廃し、アメリカやイギリスの空爆により南部から東部にかけての都市は焼失した。

第二次世界大戦終戦から10年以上にわたって続いた凄惨な内戦により、当時総人口2100万人ほどだったアルレシアからは400万人以上が難民としてノルウェー、デンマーク、オランダ、ベルギー、イギリスなどへ逃れ、さらに100万人あまりが死亡、トータルで人口の四分の一が消えた。
まさに亡国の危機であったと言える。

落ち着いた1956年より、アルレシアの復興と国際貿易の現代史が始まる。
このときすでにGATTは4回の自由化交渉を終えており、累計61700品目の関税が削減されていた。
まだアルレシアに自由化を行う余裕はなく、それどころか東西ドイツ両方との国交は断絶していた。
同じ席上につけないため、GATTをはじめブレトンウッズ体制の機関に入ることはできず、東側においても同様だった。
そこでアルレシアが始めたのが東西両陣営への賠償金交渉であった。



***


1957年、ハーグにてイギリス、アメリカ、フランスとアルレシア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、ノルウェー、デンマークの9か国協議が開かれた。
議題は内戦中のアルレシアに対する空爆と補償、そして亡命したアルレシア人についてである。

アルレシアの狙いは、空爆したアメリカ、イギリスと出資したフランスからの賠償を引き出すため、亡命したアルレシア人という議題のために集まった中立国からの賛同を得ることだった。
議長国は永世中立のオランダ、そして場所も法の都ハーグである。

「ほな、会議を始める。アメリカ、イギリス、フランス、アルレに詫びて金払いね」

「そうやそうや!」

「んだんだ!」

議長国オランダの初っぱなからバイアスかかった発言に、ベルギーとデンマークが賛同する。ノルウェー、ルクセンブルクも頷いた。
中立国が聞いて呆れるほどの清々しい片寄り方に、アメリカたちの顔はひきつった。


「ちょ、ちょっと偏りすぎだろ…!」


イギリスは眉を寄せるが、フランスは仕方ない、とばかりに肩を竦めた。

「そうなるのも無理はないよね。じゃ、お兄さんお金貸しただけだからイギリスの10%出すよ」


抵抗するより折れたもの勝ちだ、とばかりにフランスはさっさと僅かな額を提示した。

「てめえクソ髭野郎!せこいぞ!」

「……」


イギリスに掴みかかられ応戦するフランスを見向きもせず、アメリカは黙って考えている。その無言の思案が不気味だ。

「…どうした、アメリカ」


アルレシアが静かに問えば、アメリカは顔を上げる。その真顔は確かに大国の威圧をもっていた。


「俺たちは左派や共産党の施設しか攻撃してない。もしそうでないと言うんなら、証拠はあるのかい?俺たちが傷つけたっていう証拠がさ」


そう来たか、とアルレシアは内心舌打ちをつく。もちろん、パソコンすらないこの時代にそんな証拠があるわけがない。
凶悪な顔になっているオランダの後ろからは、ノルウェーの威圧もかかっている。過保護すぎだろう。


アルレシアは椅子に深く座り直し、口を開く。いつのまにかイギリスとフランスも黙っていた。


「そうか。なら、仕方ねえな。共産主義じゃねえけど…ロシアんとこ行くか」


それには全員がギョッとした。内戦中から、アルレシアの東側化は周辺国の脅威だったのだ。

ニヤリと笑ってアルレシアは紙をテーブルに叩きつける。


「ロシアは謝ってくれたぜ?」


その紙はロシアによる公文書であり、内容は内戦中のアルレシアに対する派兵の謝罪と500億ルーブルの支払いだった。
アメリカが謝らなかったらそのままルーブルを通貨にして東側につくことを言ってある。
危ない橋ではあるが、アルレシア国内ではもはや共産主義が受け入れられないため、ロシアにはアルレシアに侵出することができない状態だ。


「…はぁ、分かったよ。まったく、君には敵わないな。東側にいかれるくらいなら、いくらでも積むよ」

「金に物言わせるお前のスタンス、嫌いじゃねえよ?」


謝罪する気ゼロの金で解決しようというアメリカの直接的すぎる言葉は、金至上主義のアルレシアにとってむしろ好感できるものだ。
お互いにゲス顔をする二人に、イギリスですら引いていたという。オランダはそんなアルレシアでも良かったようだが。


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