夢主と考える国際経済シリーズ
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アジア通貨危機が東アジアから爪痕を残しつつ去った頃から、ASEANにおいてはシンガポールが、北東アジアにおいては韓国が動き始めた。

ASEANは通貨危機の後からまとまりを失い、各国の利害調整が難しくなった。それに業を煮やしたのがシンガポールであり、アジアで先駆けてFTAを締結し始めた。
輸出依存型国家としての地位を安定させたい韓国も自由化競争に乗りだし、「FTA領土は俺が世界1なんだぜー!」と自称している。わりと事実である。

中国の圧力が強まるなかで台湾もFTAを結ぶことで国家に近い存在としての価値を高めようと躍起になり、通貨危機の震源であるタイもシンガポールに負けじとFTAを始める。
FTAの最大の特徴ともいえる最恵国待遇が適応されないルールは、貿易転換効果を発生させるものであり、これらの国がFTAを結び始めるとその不利益を周囲の国々が被りはじめて、それを何とかしようとFTA政策に乗り出す。

これをドミノ効果という。

NAFTAとのFTAを結んだアルレシアは、東アジアでのこの情勢をみて、ようやく当初の狙いが実現できると踏んだ。
まずは経済的に発展しているシンガポールと1999年にFTAを締結、ASEANへの金融をはじめとした投資などのアクセスを得た。

欧州の外れ者、というようなイメージがついてしまっていたアルレシアだったが、その経済規模はOECD上位に匹敵し、国民一人当たりの所得は世界で5本の指に入る。
人口は2000万人あまり、国民全員が金持ちに該当するため、その市場は非常に大きい。

地理的な遠さから、アルレシアとのの物品貿易はあまり大きくはなく、お互いに農業でも工業でも圧迫されない。

これらは東アジア諸国にとってはとても魅力的な条件であり、欧州との交渉を成立させたという箔もつき、EUとの交渉への経験値にもなる。メリットだらけだ。

そのため、アルレシアとのFTA交渉に名乗りをあげたのは、1999年から2000年の間にタイ、韓国、台湾、マレーシア、チリ、オーストラリア、ニュージーランドと多岐に渡る。

そしてここからが、アルレシアの貿易交渉の腕の見せどころとなった。


「俺とのFTA交渉は全員同時に行う。交渉の情報はすべて即日完全公開。決定された内容は署名前であっても不可逆的とし、発効後もラチェット条項が適応される。それでいいよな?」


ラチェット条項とは、1度決定された自由化をいかなる手段によっても以前の状態に戻すことはできないというものだ。自由化の不可逆性を規定する。
まだFTA競争の序盤であったこの頃、どの国もこのアルレシアの宣言に頷き、これを前提とした。
それが、各国の首を絞めることとなる。


***


最初に始まったのは、韓国とアルレシアとの交渉だった。
韓国は高い自由化率の他、工業製品の即時関税撤廃や非関税障壁の完全撤廃を求めた。

「俺の家の製品の方が安いんだぜ?だから関税なんて早くなくした方がいいんだぜ!」

「乳製品と果実の全種別の関税もいらないだろ?あぁ、あと原産地規則は付加価値基準にして50%は必要だよなぁ?」

「なっ…!そ、れは…」


アルレシアからの輸出で韓国が困るのは農業品目である。いくら地理的に遠いとはいえ、比較的運びやすいこれらの製品は韓国の内需を圧迫する。
また、原産地規則とはある製品がどこの国で作られたかを決定するための基準のことである。付加価値基準という種類では、何%の加工を加え付加価値をつけたかで原産地を決める。
50%なら、製品の半分はその国で作られていなければ原産地として認められず、関税の対象になってしまう。

韓国は日本や中国から多くの部品を輸入しているため、50%は難しい。

「ちょっと考えてくるぜ…」

「おー」



***



韓国が乳製品や果実類の関税撤廃に躓き、原産地規則で揉めたと公開された翌週、ニュージーランドとアルレシアの交渉が行われた。

「僕は乳製品も果実類も関税なくしていいよー。原産地規則もアルレシアに従うし」


アルレシアを凌ぐ乳製品の生産量を誇り、果実類も半球の違いから生産時期が被らないニュージーランドは、それらの関税撤廃に前向きだ。
工業製品はそもそも強くないため、わりとどうでもよい。


「おー、ありがとな。そうだ、ワインやその他の果実酒の関税もなくしてもらえるか?」

「ワイン…酒…そうくるかぁ〜…」


一方、最近質を高め力を入れているワインなどの果実酒は、生産時期などは関係ないため、アルレシアと強豪関係にある。むしろ、フランスと近いアルレシアの方がワインの質は昔から高い。
今はワインを弱めたくないニュージーランドは、返答を保留した。


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