第二話: カジノ″Crow crowN″−3
「いやはや、なるほど。なるほどねえ」
中年男性は渡されたシャンパンを見つめ笑う。漣のサービスに大いに満足しているようだ。高齢の女性たちも、「素敵ね」と表情を緩めた。
「それでは乾杯しましょうか。スペードの幸運を願って」
中年男性はプレーヤーたちとアイコンタクトをしてからグラスを軽く上げ、他も応じる。ワイングラスやシャンパングラスは繊細であるため、乾杯のときにぶつけることは普通しないのがマナーだ。目線を合わせてグラスを掲げるのが正しい所作である。
全員が口々に酒を褒めたところで、漣はようやくディールに入った。今晩このプレーヤーたちの3戦目にあたる。
「ルールは引き続き同じです。クローズド・ポーカー、ノーリミット。ベッティング・インターバルはカード交換後の1度のみ、アンティは白チップ1枚となります。それではアンティをポットへお願いいたします」
アンティとは参加費のことだ。カジノやゲームによって金額は異なる。
プレーヤーたちが一斉に白チップをポットへ押しやる。その仕草も洗練されていた。
ポットとはベットしたチップを置く場所のことだ。
ここでのポーカーはクローズド・ポーカーという最もポピュラーなものである。手札を見せないまま進行していく。
まず漣は5枚のカードをそれぞれに配る。残りを山として全員と等距離の場所に置いた。
最後のプレーヤーである高齢女性に配ったところで、一斉にカードを見る。表情は変わらない。ここで相手の表情を見て心理戦をする、というようなことは、実はあまりない。
スタッド・ポーカーであれば、最初の数枚だけが隠され、以降順に配布されるカードは公開されるため、心理戦の色が強くなる。
「では交換される方はどうぞ」
漣が端の女性に目配せをして、それぞれのターンが始まる。女性は3枚を交換した。やはり強気だ。僅かに強張る表情は、漣にしか分からない。
その後全員が1、2枚を交換した。
交換する前と後それぞれでベットをすることもあるが、日本では交換後の1度だけという方がメジャーだった。
「ではベッティング・インターバルに入ります」
ベッティング・インターバルはベットをするターンのことで、最初の一手はフォールド、オープニングベット、チェックに分かれる。
フォールドとはゲームを降りて降参すること、オープニングベットはベットを開始すること、チェックは自分の番をスキップすることだ。
ベットは、誰かがベットをしてから始まるので、最初のベットをオープニングベットと呼ぶのである。最初に全員がチェックした場合には、アンティだけで掛け金が決定されることになる。
オープニングベットによってベットが始まると、前の者が出した金額と同額かそれ以上を賭けなければならず、全員がチェックするまでベットが続く。場合によってはとんでもない金額となるため、制限をかけることもあった。
逆に制限なしの青天井とするゲームをノーリミットといい、この卓はそれにあたる。
とはいえ、ベットできるのはプレーヤーがテーブル上に出しているチップだけと決まっているため、懐にしまったままのチップは賭けることができず、財布の現金も賭けられない。テーブルに現金を出していれば、現金でベットすることもできた。
ざっと見る限り、このテーブルに乗っているすべてのチップの総額は3500万円ほどだった。
最初の女性はチェック。一人目から賭けると総額が高くなりがちで、自身のフォールドをする可能性を低くするため一人目がチェックすることは多い。
若い男性はオープニングベットを選択、赤チップ2枚を出した。30万円だ。
続く中年男性は青チップ1枚、50万円。このように前の人物より高い額をベットすることをレイズという。
次の高齢女性もレイズして黒チップ1枚、最後の女性は同じ額を賭けた。同額をベットすることをコールという。