第二話: カジノ″Crow crowN″−2


東京都臨海特区潮騒2丁目、カジノ街として立ち入りに制限がある潮騒地区において、サウスゲートとセントラルゲートの間にある区画である。
2丁目には「桜アミューズメント社」が割り当てられており、その運営するカジノが4軒、ホテルが1棟、そして京都やミラノの三つ星レストランの支店が2店と普通のレストランが2店、コンビニが1店立っている。

日系企業であるため和風のものもあるが、漣がいるのはわりと正統派なカジノだ。日本的な西洋正統派、とでも言おうか。
その名を「Crow crowN」といい、潮騒地区でも有名で人気のカジノだった。名前の通り、カジノのロゴマークは王冠をした烏だ。

クラシックなスタイルであることもあり、漣をはじめディーラーの制服も正統派。
黒いスラックスに、白とシャドーのストライプが入った黒いシャツ。ネクタイは横方向にワインレッドからダークレッドへとグラデーションした生地の上に控え目な白と黒の線で構成されるアーガイル柄。そしてその上に黒に近い深緑の地と金糸刺繍が施されたベストをしており、ベストの左胸に留めたこのカジノのロゴをあしらったブローチからネクタイにかけて、金色のチェーンをつけている。
イカサマをしていないことを示すため、長袖のシャツは捲っており、手には黒い手袋を嵌めていた。

漣はディーラーの中でもトップの扱いを受けている。IRができるまで賭博が禁止されていた日本では、カジノのディーラーというのはほとんどおらず、とりわけ本場モナコのカジノで10年働いていた漣はプロ中のプロだ。
モナコでの漣の人気もあってか、噂を聞いた日本の上流階級も漣のゲームに参加しようとCrow crowNを訪れるため、ここは基本的にラグジュアリー路線のカジノとなっていた。

それもあって、このカジノにおけるチップは額が他と異なる。
一番安いものが白チップだが、そのレートは1万円だ。チップは慣習で、白が1、赤が15、緑が25、黒が100となっている。Crow crowNでは白チップが1万円であるため、赤は15万円、緑は25万円、黒はなんと100万円となる。

他に独自のものとして、ピンクが5万円、青が50万円と設定されており、さらに高額なものでは茶色が500万円、紫が5000万円、金色はそれ以上の額で任意の数字を書き込むものとなっていた。
高額チップは、先ほどのディールのように総額が高い場合に、客の持ち運びを便利にするため使用する。2355万円であれば、茶色チップ4枚と黒チップ3枚、青チップ1枚とピンクチップ1枚である。


「失礼いたします。カリュアド・ド・ラフィットをお持ちしました」


さほど時間をかけずにワインを運んできたのは、このカジノのホールでチーフを務めている澤村大地だ。基本的には全体の指揮を執るが、漣がいる卓、すなわち一流セレブが集まるテーブルには必ず澤村がサーブすることになっていた。
精悍な男前は女性にも人気で、レディからマダムまで澤村の凛々しさに虜となる。ホール担当は皆、黒のスーツでかっちりと決めているが、澤村は胸元に金のブローチをしている。チーフを示しているのだ。


「こちらの男性に」


あえて漣が言葉を遅らせれば、口を開く前に中年男性が先に声を発した。とにかく気分が良くなっているのだ、このまま乗せて儲けたい。この男は自らの自尊心のため、奢ったのは自分だと言うために自ら口を開いたのだ。それくらいお見通しだった漣は、わざと何もしなかった。

澤村はワイングラスに芳醇なワインを注いで若い男性に渡した。次に澤村は、客からは注文のなかったシルバーのボトルを取り出した。それを見てプレーヤーの男女が少し驚く。

ようやく漣は言葉を口に乗せた。澤村が男前なら、自分は二枚目というか、甘いマスクをしていると知っている。この顔も立派な商材なのだ。
澤村がボトルを開ける横で微笑む。


「こちらは私から皆様、とりわけ見事にスペードのフラッシュを引かれたレディにプレゼントです。アルマン・ド・ブリニャックのブランドブランシルバーをどうぞ」


フルートグラスに注がれるシャンパン。小ぶりなボトルはエレガントなシルバーに輝き、ラベルのスペードには装飾されたAが誇らしげにしていた。
世界中のセレブに人気のステータス性を持つアルマン・ド・ブリニャックは、そのスペードが象徴だ。女性らしいピンクのものはやはりレディたちに人気なのだが、あえてシルバーとしたのは、強かなベットをした彼女には、このシルバーのスマートさの方が見合うと判断してのことで、教養あるセレブたちは当然、この漣の考えも理解していた。
このサイズのボトルは市場価格で6、7万円ほど。このセレブたちには大した額ではないが、数が多くないためレアではあるし、何よりも、ここでディーラーからのプレゼントとして輝くスペードのボトルが渡されたことに、自分たちが選ばれた人間なのだと感じられる気持ちよさは値段以上のものだろう。

頬を赤らめた女性は、澤村からではなく漣からフルートグラスを受け取る。その黄金は、きめ細かな気泡すら宝石のようで、シャンデリアの照明に照らされて美しい影をテーブルに落としていた。


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