第二話: カジノ″Crow crowN″−4


また最初の女性にターンが戻る。オープニングベット以降できるのは、フォールド、レイズ、コール、チェックだが、チェックするには前の人物と同じ額以上をすでにベットしていなければならない。全員がチェックするとはつまり、各自がその金額に納得するということだ。
女性もコールを選び黒チップ1枚。この女性は自信がないと分かった紳士二人は、コールを選ぶ。ここで全員が少なくとも黒チップ1枚を賭けていることになる。
日本人らしく空気を読んでそれ以上吊り上げることはせず、高齢女性二人はチェックを選び、他の三人もチェックして、ベッティング・インターバルは終了した。


「それでは、アクティブ5名様にてショーダウンに入ります」


フォールドしなかった者をアクティブプレーヤーと呼び、ショーダウンはこのアクティブプレーヤーでのみ行われる。フォールドしたとしてもチップは返ってこない。

まずは最初にコールされた金額をベットした高齢女性の一人目からだ。ハンドの内容は♥6、♦6、♣️5、♦5、♠️J、ツーペアだ。
最初にコールされたプレーヤーの次からはコールした順となるため、高齢女性の二人目、最初の女性と続く。二人ともワンペア。
そして、次の若い男性は、♠️6、♣️6、♠️5、♥5、♦Qのツーペア、最後の中年男性はワンペアだった。


「…今夜のスペードは、随分と運をくれるらしいですね」


若い男性は驚きながら言った。ツーペアの数字がまったく同じということは早々ない。54枚のカードから5人のプレーヤーが5枚のカードを引くのだ、そのうち2人が同じ数字を2枚ずつ引く確率はとても低い。
欧米ではこの場合引き分けだ。しかし日本ではスート(絵柄)も加味される。そのため、この場合では数字が高い方の6において、ランクの高いスートを持っている方が勝ちとなる。
日本でのスートのランクは、高い方から♠️、♥、♣️、♦となっている。

そのため、ここでの勝者は若い男性。580万円の賭け金にアンティ5万円を足して585万円だ。
この男性は先ほどのディールからの参加であるが、先ほどは早々にフォールドしたためアンティの1万円しか損失を出していない。今回の自分で出したアンティも引いて、583万円を儲けたことになるわけだ。

ポーカーは損失を少なく儲けを大きくするため、数戦に跨がる総合的な策略が必要となる。先ほどフォールドを選んだことはもちろん、ツーペアで♠️6がマックスという状況が決して勝ちを確信するものではないことから、オープニングベットをしつつレイズはしなかったのも戦術だろう。なかなか上手い。


「スペードに感謝いないといけませんね。アルマン・ド・ブリニャックもう1本入れてくれますか?」

「ブランドノワールでいかがでしょう」

「そうですね、それが相応しい」


ゲームの高揚感が場を支配する。策略が功を奏して男性は浮かれており、1本17万円前後のシャンパンを頼んだ。他のメンバーもまだまだやる気だ。

ポーカーはカジノにとって利益は少ない。客どうしの対決となるからだ。ディーラーが勝てばカジノに儲けとなる客対ディーラーではない。
しかしポーカーは知的スポーツと欧米では認識され、カジノが日本で合法化されると、それをよく知る日本の上流階級たちも教養としてポーカーをやりに来るようになった。欧米と同じく、日本のポーカーもカジノの奥にある。そこは一等地なのだ。

ディーラーの仕事は、エンターテイナーだ。客を楽しませることが仕事であってイカサマで儲けることではない。
だが一流は、ポーカーでもカジノに儲けを入れてみせる。

すでにワイン2本注文で、仕入れ値で20万円ほど。請求する額は28万円だ。まだまだプレーヤーたちは注文を入れるだろう。澤村は度々高額なボトルが入ることに顔色を変えることはなかったが、内心では喜んでくれているはずだ。スタッフたちの給料を上げることも、澤村の個人的な仕事らしい。その優しさが彼らしかった。


「さぁ、スペードに期待して、次のディールを始めましょう」


だから漣もそれを手伝う。ディーラーとしても、そして、副業においても。



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