第二話: カジノ″Crow crowN″−5
その後、何ディールか終えた頃に、端にいた女性が酔ってしまったと言ったため、お開きとなった。今宵の女性の儲けは最終的に630万円となったようで、茶色チップ1枚、黒チップ1枚、青チップ1枚を握りしめてフラフラと立ち上がる。
「ごめんなさい、今日はホテルを取りたいわ。案内してもらえる?」
「かしこまりました」
恭しくプレーヤーたちを見送ると、漣は女性をエスコートしてテーブルを離れる。夜も深いが、この街に宿泊している客たちはまだまだ遊んでいくらしい。
その喧騒の中を、静かに裏へ抜けていく。
カジノに併設するように建てられた全室スイートルームのホテル「NesT」は、この区画にある4軒のカジノいずれとも直通している。部屋数は55室と大きくはないが、常時7割は埋まっていた。
アルマン・ド・ブリニャックのロゼのボトルを片手に抱えている女性を案内して、ホテル4階の部屋に入ると、すぐにこちらにしなだれかかってきた。
「このピンクのボトル…素敵ね」
「そう仰っていただけて何よりです。さ、こちらへ」
ソファーに促そうと室内を進むが、女性は案外強い力で漣を引っ張り、ベッドに倒れ込んだ。それを振りほどけないわけではないが、敢えて負けて漣もベッドに腰掛ける。
「私、ピンクは似合わないから。ピンクのものなんて、初めてプレゼントされたわ」
「ではシルバーはお気に召さなかったですか?」
「いいえ。とても嬉しかった。ピンクではなく、シルバーをもらうような、そんな評価をされるのが好きで、嬉しくて、今までもずっとそうだった。知的な女社長っていう自分の肩書きは、度数15%のお酒だったの」
知っている。この女性は、もともと金持ちの娘だったが、大学卒業後にコンサルタント会社を立ち上げて、自力で成功させた。大事な場面で200万円のオープニングベットを行うような豪胆さが、彼女を成功させたのだろう。
それくらい、漣は「リサーチ済み」だった。
「夫もね、弁護士事務所をやってるの。だから滅多に顔を合わせないわ。便宜的に結婚しただけだから、お互い愛人を別に持っているの」
それも知っている。そしてこの女性は、その寂しさを紛らわせるように、様々な社交場に出ては知的な遊びをしていた。噂好きな性分で、金持ちたちの裏話をたくさん知っていた。漣の今宵のターゲットだ。
「今日はお一人なんですね」
「ええ。とても素敵なディーラーがいると聞いて、気になって一人で来たのよ。そうしたら、本当に素敵だった。ねえ、私、ピンクって似合わないでしょう?」
「確かに、あなたにはシルバーが似合う。でも、ふとしたときに見せる愛らしさは確かにロゼを感じさせました」
す、ときめ細やかな肌を撫でる。擽ったそうに笑った女性は、細い腕を漣の首に絡ませながら、ブローチとネクタイを結ぶチェーンを指先で弄る。
「私、こう見えて色々知っているの。噂が好きなのは女のサガだもの。あなたも知りたい?」
「あなたのことなら、なんでも」
漣はシャツの一番上まで留めていたボタンを外し、ネクタイを緩める。その仕草や、あらわになる首筋、鎖骨が誘惑となることを知っていた。テーブルでカードを配る、捲った袖から手袋までの白い筋張った腕が魅了することも、この顔立ちも、明るい瞳も、すべてが漣の武器だった。