第一話: 無骨なあかつき−3


武骨なマンション街を進むこと3分、目的のマンションに着いた。夜の帰宅ラッシュで人通りは多い。
単身者用のマンションの1つに入って、事前にハッキングしていた暗証番号で難なく中に入ると、4階の部屋へ。421号室を見つけ出せば、表札には律儀そうな字で「茂庭」と書かれていた。
伊達総合建設の委託事業部部長であり、TIREAのインフラ管理室(IMO)で施設維持部(MFD)の部長でもある敏腕の部屋だった。

そもそも伊達総合建設は、仙台に本社を置く国内第2位のゼネコンで、日本中で大規模な建設を行っている一流企業だ。最近は日本政府や白鳥物産などとともに海外でのインフラ輸出にも力を入れている。中央防波堤埋め立て地の再造成とACTIRの建造にあたっても伊達総合建設が主力事業を担い、現在もその維持管理のために委託事業部を立ち上げて丸ごと出向させている。TIREAのIMOは完全に伊達総合建設の出向社員によって管理職を占有されているのである。

そんな伊達総合建設において委託事業部の部長を、更にTIREAのMFDの部長もしているのが茂庭だ。MFDは島の基本的な施設の維持管理を行う部署で、道路橋梁課(RBS: Road and Bridge Section)や地下施設課(IUS: Institutions Underground Section)、堤防基礎建築課(BBS: Bank and Basement Section)などまさに島の基盤施設を管轄する。
事前にハッキングして調べた情報では、茂庭は若手ながら様々な分野で活躍していたようで、島の再造成プロジェクトでも重要な役割を担っていた。恐らく、密輸についても知っているはずだ。事実、及川は茂庭の関わりを把握していた。どの程度茂庭に話が下りているのかは分からないが、聞き出せるだけ聞き出すべきだ。

部屋を偽造カードで開けて中に我が物顔で入ると、当然だがまだ茂庭はまだ帰宅してなかった。残業続きなのは勤怠管理で知っている。だが今日はサーバーメンテナンスが行われるためPCを使用できず、絶対に帰宅する。人の部屋でくつろいで待っていれば、日付を変わるくらいに玄関が開いた。


「あれ、つけっぱにしてたか」


一人暮らしが長いのか、慣れたように独り言を漏らしている。明かりのついたリビングを自分のミスだと思っているようだ。勝手に冷蔵庫から出したビールを飲んでいると、ようやく茂庭がリビングに顔を出した。漣と目が合うと、その大きな瞳を瞬かせる。


「……?」

「どうも」

「どう、も…っ!?部屋!間違えました!!えっ!?でも鍵!?」


大混乱している茂庭に苦笑すると、漣は隣を示した。「あってますよ、ここはあんたの部屋だし」と言葉も添えると、茂庭は身構える。


「だ、誰だあんた、人の部屋で」

「俺は香坂漣、潮騒地区のカジノでディーラーをしてる」


漣は今ジーンズに黒いシャツ、パステルブルーのストールとシンプルな私服だ。それもあって茂庭は依然として訝し気だった。当然だ。


「ディーラー…?いったいなんの用なんだ」

「ちょっと聞きたいことがあるんだよね。新東京港から潮騒地区に伸びる地下道について、とか」

「っ!!」


今度は茂庭は顔を蒼白にさせた。さっと青ざめたのは、密輸がバレたと理解したからだ。犯罪の自覚は、当然だがあるらしい。


「ま、座ってよ。警察に突き出すつもりじゃないし、及川も知ってる」

「……香坂漣、モナコの凄腕ディーラーにして情報屋」

「おっ、正解」


どうやら茂庭は噂と目の前にいる漣が合致したらしい。自身の置かれた状況を少しずつ把握したらしい茂庭は、ローテーブルを挟んで向かいに腰を下ろした。力が入っているのは、すぐに動けるようにだ。キッチン側をキープしているのは、いざというときに包丁でも使うつもりだろうか。あまり油断を見せるつもりもないらしい。



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