第一話: 無骨なあかつき−4


「…俺に何の用?密輸したいなら及川に話すだけで十分だろ」

「そう。十分だったよ。ほら、こうやって密輸貨物に取り付けた発信機の記録だって得られた」


そう言って発信機のGPSログを表示したスマホ画面をかざす。確たる証拠を突き付けてやれば、いよいよ茂庭は顔に色をなくした。証拠を用意できないだろうと思っていたところで、漣から先手を打たれたのだ。この証拠は白鳥系列をつるすことはできずとも、伊達総合建設を陥れることは十分可能だった。


「…も、目的は……」


声を震わせる茂庭は、深刻な事態だと受け止めているようだった。及川のように飄々とはしていない。こちらが当然のような気もするが、一方で、これだけの組織的不正をしておきながらこの反応はどうかとも思った。


「俺は情報屋だ、知ることに理由なんていらないだろ。さぁ、洗いざらい吐いてもらおうか茂庭部長。大切な部下も自分も、路頭に迷う真似は嫌だろ?」


及川からは情事の中で情報を聞きだした。茂庭には確たる証拠を示して脅すだけで十分だろう。及川を脅すには手札が少なかったのだ。それを差し引いてもなかなかに悪くない夜ではあったので、茂庭も案外そうかもしれなかったが、別に漣は色仕掛けがメインではない。今は合理的な方法をとにかく優先した。
茂庭は脅されていることを正確に理解すると、重い口を開く。


「…話せば、何もしないでくれるのか」

「もちろん。俺は誰かに指示されているわけでもない。ただ、この街のことを知りたいだけ。あんたの大事な部下にも手を出さないよ。そうだね、例えば…道路橋梁課の課長・鎌先さんや、地下施設課の笹谷さんはもろに罪に問われるだろうし、茂庭さんが前までいたサイバー管理部(CMD: Cyber Management Division)の部長である二口さんとかもそう。茂庭さん次第」


名前と役職を出したことで、いよいよ全員に迫る危険が現実的なレベルなものだと確信した茂庭は、ついに降参した。元から抵抗する気もあまりなかったようだが、自分のことではなく部下のことで脅しになるあたり、茂庭はとても優しい人物なのだろう。
そんな茂庭がどうやってこんな犯罪に手を染めたのか、それは個人的にも気になるところではあった。


「…もともと、伊達総合建設は中央防波堤再造成プロジェクトの入札において不利だった。最大手の建設会社が有利で、ウチじゃ政府のお抱え案件は取れないだろうって。でも、大平不動産が不当に情報を流してくれて、そのおかげで必要な準備をすることで、俺たちの会社は政府や都と談合をして入札することに成功した。しらとり銀行もバックアップにあたってくれて、あの系列の協力の下でこの島を作り直すことになったんだ」


政府の公共事業などを民間が入札するようなことを政府調達というが、このACTIR建造という大規模な計画には世界中から政府調達志望の企業が名乗りを上げた。とりわけ、TPPなどの協定で政府調達がかなり解放されたこともあって、欧州や米国、マレーシアなどの企業もかなり強く、入札は難しかったようだ。そんな中で伊達総合建設が入札できたのは、大平不動産によって政府情報が横流しにされ、しらとり銀行が融資を行い、日本政府や東京都との談合の場を設けることに成功したからだった。
こうして不正に入札した伊達総合建設は世界最大のIRプロジェクトを請け負うこととなり、今に至る。


「密輸計画の話は、しらとり銀行から持ち掛けられたらしい。銀行、というか頭取の牛島家って言った方がいいのかもしれないけど。入札の恩があったから断るわけにもいかないし、今後の関わりも考えると乗っておくほうがいいっていうんで、公開図面にはない地下道を建設した。そこを通って、密輸ができる環境を整えた」

「しらとり銀行が密輸を始めた理由は知らない?」

「そこまでは。俺も、この役職についてから知ったし」



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