第三話: 情報屋−3
漣が最初に目を付けたのは、MSDのEPSでパトロールをしてる京谷だった。警察の委託を受けているくせに、刈り上げた金髪に黒いツーブロのラインを入れている厳つい男だ。
よく、一緒に回る後輩らしき者たちに怒鳴っては放っておいていた。つまり、一人になりやすい。不真面目であることも想像に難くない。
MSDがこの犯罪に関わっているとして、間違いなく組織的な動きをしなければならない。そのためには、最初から何かしらのグループを構築した上でMSDに就職したと考えるのが自然だ。
その団体の尻尾を掴むため、ボロを出しやすそうで、かつ明確に関係していることが監視カメラで分かっている京谷を選んだわけである。
その前に、漣はいったんカジノの経営者に話を通すことにした。情報屋業を本格的にやるにあたって、このカジノそのものが情報屋の商売場ともなるためだ。
協力体制やマージンの話が必要となる。
やると決まればすぐ行動に移そうと、漣は自室を離れて経営者のいる部屋へ向かう。同じフロアの、よりカジノに近いところだ。
何の変哲もない鉄の扉をノックすると、低い応答。
「香坂です、失礼します」
「おお、なんだ」
扉を開けて室内に入ると、金髪が出迎えた。柄の悪い男は烏養繋心、カジノCrow crowNのオーナーだ。
この男の祖父は、桜アミューズメント社のACTIR営業所の所長をしている。その下でカジノの1つにしてメインのものを任されている。祖父は伝説的な人物で、かつてマカオで「破産カラス」と呼ばれた元ディーラーだ。
同じマカオでのライバルで「化け猫」と呼ばれた猫又という男がACTIRでカジノを開くにあたって、烏養もここでカジノを開いて勝負することにしたらしかった。
「お前が来るなんて珍しいな。なんかあったか?」
烏養は漣の事情を知っている。モナコからパスポートや許可証を偽装して来ていることを知りながら雇ってくれていた。
「ちょっと相談したいことがありまして。金稼ぎの話です」
「聞こう」
応接用の簡素なソファーに促され腰掛ける。そもそもここは客が来るような場所ではないため、この応接セットも烏養とスタッフの面会のためにあるものだ。
ローテーブルを挟んで反対側にどかりと烏養が座る。煙草を吸い始めるのを特に咎めもせず、漣は口を開いた。
「俺がモナコで情報屋もやっていたのは知ってます?」
「おう。フランス財界やブリュッセルのEU官僚の間じゃ有名な凄腕だったんだろ」
「早い話、それを東京でもやるつもりです」
「なんか掴んだのか」
「少なくとも密輸の可能性はありますね。それも、大規模かつ有名企業の後援で」
「いつの間にって感じだが、それも今更だろうな」
いつの間にそこまで情報を掴んでいたのか、という意味だ。烏養は聞くのも野暮だと苦笑しながら煙を吐く。
「いいぜ、好きにやれよ。もともと、お前みたいなじゃじゃ馬、手綱握るつもりもねえし」
「飼ってみたら愛着沸くかもしれないですよ?」
「噛まれるのは趣味じゃねえんだ。あと年下もな」
「ものは試しですけどね。まっ、今ここであんたに抱かれても互いにメリットないし別にいいです」
「すげえな、体も使えんのか」
「なんでも使いますよ。試してみたくなったら連絡してくださいよ」
そう言うと同時に、テーブルに置かれた烏養のスマホのバイブレーションが鳴る。烏養がスマホを確認すると、すぐにこちらを見上げる。
その頃にはすでに、漣は扉の取っ手に手を掛けていた。事前にハッキングして入手していた烏養のプライベートの番号にワンコール掛けてやったのだ。一切漣はスマホを弄っていない。マジックなどではなく、手元にない端末を遠隔操作しただけだ。
烏養は、漣に相当な個人情報を握られている上に、漣が自身のいないところでそれを操作できるだけの技術を持っていることを理解しただろう。
苦笑して、烏養はこちらに声を掛けてくる。
「今度、めちゃくちゃに啼かしてやる」
「楽しみにしてますね」
にっこりと微笑んでやってから、漣は扉の向こうへ消えた。