第三話: 情報屋−4


好きにやれと言われたからには、思う存分やるまでだ。漣の情報屋業のよる稼ぎから取り立てるつもりがないのは、ディーラーとしての働きで十分だからだろう。ACTIRに漣ほどのディーラーはいない。英語とフランス語での対応ができる点でも、インバウンド需要に対応するという意味で貴重な人材だった。


早速行動に移すべく、漣はTIREAから奪ったMSDのシフトを見て、最短の実行日を決める。ちょうど明日、京谷がCrow crowNへやって来る。漣のシフトでは休日なのだが、もともと休みでやるつもりだってのでとてもちょうどいい。
行動に躊躇いがないのは、単にその段階ではないだけだ。向こうは完全に油断している上に、そもそもこちらにも手札がない。これからやることは、まず情報を最低限揃えることだ。


***


翌日、漣は昼からディーラーの服を着て出勤した。タイムカードは切らない。
ホールに入ると、早速気付いた縁下力が怪訝な顔をする。夜の繁忙時間を担当する主力の漣が昼間にいることはもちろん、そもそも休みだ。
昼におけるホールチーフを担う縁下は何事かとこちらへ静かにやって来る。たとえ昼間でもそれなりに客がいる。


「漣、どうした?」

「ちょっと野暮用。俺は正規業務やんないからいないものと思って」

「じゃあいったい何を…」

「野暮用を掘り下げんのは野暮ってもんだ」

「っ、」


つ、と首筋から顎を撫でてやれば、縁下は一気に顔を赤らめた。チョロい。


「そうだ、警備班は?」

「…今日は田中と西谷。エントランスにいる」

「分かった」


態度を元に戻せば、縁下はそれ以上の追求を諦めた。漣は礼を言ってその場を離れると、エントランスの警備班のところへ向かう。
途端、客からは見えない小部屋から二人が出て来た。スーツ姿の厳つい男前二人、田中龍之介と西谷夕だ。酔ったり破産したりして暴れる客をつまみ出す役目だが、基本的にはいるぞ、という圧力をかけて変な気を起こさせないようにする抑止力となる。


「田中、西谷」

「うお、漣じゃん珍しいな!」

「昼なのか?」


顔を明るくしてやって来る西谷と、後ろの不思議そうな田中はこうしていれば普通の青年だ。


「や、今日はディーラーじゃない。それより、今日のMSDのパトロール来たら無線入れてくんね?」

「別にいいけど…なんかあったのかよ」


意外と冷静なのは田中で、西谷は二つ返事で頷いただけだった。警備班の班長にしてとんでもない強面の東峰には、西谷は特攻隊長と呼ばれている。


「客なんでな」

「客…?まっ、いーや。無線飛ばすわ」


田中はなおも不明瞭な言い方をする漣にそれ以上は質問するのをやめた。この二人は漣のことは何も知らないはずだが、普通の人間でないことは察しているらしい。


「じゃ、更衣室にいるから」

「おー」


これで準備は整った。漣はいったん広い男子更衣室に下がると、ポケットの中身を確認し、エアコンの温度を最大に上げる。外は春にしては暑いような気温だ、当然暑くなる。
すると、無線が入った。


『漣、来たぞ』

「了解。エントランスで待機させて」

『おう』


変なことを頼んでいるのに疑わずに言うことを聞いてくれる二人に感謝しつつエントランスに向かえば、案の定一人で来ていた京谷がいた。普通は二人一組でパトロールしているのに、京谷は誰かといるのを鬱陶しがって散らしてしまう。MSDの人事評価にそう書いてあった。


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