連載: cuddle eagle struggle−幼馴染の距離感


部活後、若利は腰が張っていることもあって自主練には出ないことになった。柔軟とストレッチに付き合ってやりながら、メインの練習と同じペースで続ける選手たちを横目に観察する。
やはり、全体的に個々のレベルが非常に高い。県内最強というだけある。とりわけレギュラー陣の基礎力が高かった。


「……嫌みなくらい、きっちりレシーブもうめぇな」

「当たり前だ。ここは最強のチームだからな」

「ふーん。そのわりに、あんまセッターと合ってねぇな?」

「……まだ、2日だろう」

「2日で分かるくらいのレベルなのか、単に俺の観察眼がすげぇのかってとこだな」

「後者だろう。監督たちも、なかなか気付かなかった。普段、気付いたらすぐ指摘してくれるから、恐らく気付いていなかったんだろう」


背中を押すために厚い肩に手を置いていると、若利はちらりとこちらを振り返る。その真っ直ぐな目は、何かを見透かされていそうだった。実際にはそんな大層なことを考えているヤツではない。


「他人をどうでもいいと言うわりに、伊吹はよく他人を見ている」


ただ、たまに、本当にたまにだが、こうして不意打ちで突いてくるのだ。
伊吹は一瞬動きを止めてから、ゆっくり息を吐き出す。


「……関心も興味もねぇ。けど、必要なら見る、それだけ」

「…そうか」


若利はそれ以上は何も言わなかった。

その後、ストレッチも終えると若利は部室に戻る準備をする。伊吹も、事前にまとめておいた道具を簡単に片付けて用具室に戻し、部室に持っていく分を一つの籠にまとめる。それを見て、若利が首を傾げた。


「伊吹も上がるのか」

「おう。直接、自主練に付き合うよう言われない限りは上がるし、朝練も行かない。監督たちとはそう決めてある」

「あまり、自主練に付き合わせない方がいいか。特待生は大変だろう」

「気にすんな。ほら、冷えるからさっさと行くぞ、今晩から真冬に戻るらしいし」


寒の戻りというやつで、今日は東京の方が寒いほどだった。今晩から寒気が仙台にもかかり、気温が大きく下がる。
体を冷やしすぎないように、と思って2人でとっとと部室に引っ込んだが、すでにかなり寒くなっていた。


「さっむ…」

「しまった、最近は暖かいから、エアコンのタイマーをかけておくのを失念していた」

「若利がやってんの?」

「いや、1年の仕事だ。まだ引き継ぎしきれていないからな」

「じゃあ今年から空調は俺が一括する」

「すまない」


代替わりというのはこういうときに面倒だ。マネージャーがそういう雑務を集中的にやることは、小さいが大事なことなのだと実感する。
急いでエアコンをつけたが、冷え切った部室はかなり寒く、運動後の体には堪える。若利は真冬でもランニングを欠かさないためあまり気にしていないようだった。

伊吹はぶるりと震えてから、なるべく早くジャージを脱いで制服に着替えた。
ここから寮に戻るだけなのにいちいち制服を着るのは正直かなり面倒だったが、今日は寒いので助かった。ボタンを止めて、白いブレザーを羽織る。さすがにネクタイは面倒なのでつけなかった。

若利の方を見ると、きっとりと制服を着ている。相変わらず真面目だった。
それにしても、先程のストレッチでも思ったが、本当に体格が良くなった。暖かさそうだな、と思って、伊吹は思わず若利に正面から抱き着いた。


「っ、どうした」

「さみぃな〜って思って。つかマジでお前、筋肉ついたな」

「まぁな。伊吹は鍛え方が足りないんじゃないか」

「うるせぇ体質だわ」


身長差も大きく開いて20センチになっている。目線と肩のラインがほぼ同じで、若利が抱き締め返すと完全に包み込まれるような形になった。
ぐりぐりと鎖骨から胸板あたりに顔を押し付けると、大きな手が後頭部を撫でてくる。


「寒いとき、よく伊吹はこうするな」

「お前体温たけぇからさ。嫌だった?」

「……役得だと思っている、と言ったら、嫌か」


何を言うかと思えばそんなことで、伊吹は苦笑する。この幼馴染みは、どうにも伊吹のことが好きすぎるのだ。律儀なヤツだから、ある意味一途でもあって、バレーとともに愛しているものがあるとすれば、どんなときもそばにいた伊吹だろう。それだけ愛されている自覚は、伊吹にもあった。


「…別に、嫌じゃねえよ。そういうのも引っくるめて、お前といる時間が落ち着く」

「…それなら、良かった」


まるで恋のようだが、判然とはしない。
少なくとも伊吹は若利に対してそのような想いは抱いていなかったし、天然たる若利もどんな感情かは分からない。ただ、若利にとって伊吹は、最も近く、最も長く、どんなときもそばで支えてくれた相手という認識であるのは確かだ。

どちらかといえば依存だろうか。そう思いながらも、伊吹は若利がこうして感情を向けてくることに、なぜか安堵していた。それがなぜなのかは、伊吹にも分からなかった。



prev next
back
表紙に戻る