連載: cuddle eagle struggle−始動、白鳥沢学園バレー部
翌日、すでに始業式を終えた上級生に新入生も加わり、白鳥沢学園は通常過程に入った。とはいえ、最初はオリエンテーションの類も多く、新入生は授業開始までしばらくある。全学年の健康診断もあって、慌ただしい日々が続くだろう。
そんな中、部活はすでに本格的な始動モードになりつつあった。
他の高校と同じく仮入部期間を経てから始まるというのが通常の流れだが、バレー部は違う。
概してどの部活も東北最強の強豪であることが多い白鳥沢学園だが、バレー部は別格で、監督の権限も強い。そのため、監督の意向でバレー部だけは仮入部期間がなかった。
「迷うくらいなら来るな」ということだ。もともとお眼鏡に適った推薦組を軸に、一般から逸材の成長も期待するという人材確保を行っているため、勧誘は必要ないのである。
そういうわけで、二日目にして入部届を出した生徒を迎えて、もうこの日から今期のメンバーが確定して部活が始まる。
推薦組の川西たちや、一般の白布も含め、ずらりと1年が上級生の前に並ぶ。今期は主軸となる若利を含め、2年主体。実力社会のここでは、学年に関係はない。
1年も本気でレギュラーを獲りに来る。並んだ1年の目つきは鋭かった。
伊吹はマネージャーとしての入部だが、並んだ1年は中学時代に見たことがあるやつばかりで、戦ったことがある者もいた。向こうも伊吹が北川第一のエースだったと知っているため、「マネージャーです、よろしくお願いします」と自己紹介したのを見て驚いていた。
推薦組や中等部の持ち上がり組、上級生は若利による暴露を知っているのだ、恐らくそこから話が広がるだろう。
さっさと自己紹介も終えると、斉藤の指示で各自が散っていく。今日は昼食後すぐに部活が始まっていることもあり、準備運動のあとは柔軟とロードワークが続く。
1年はもちろん、他もこの時期は基礎体力の向上のためにロードワークや筋トレが大きな幅を占める。体育館は2人一組でメニューに指定された準備運動を行うざわめきに満ちていた。
人数も多いためか、全員で声を揃えて、というようなスタイルではなく、完全に各自だ。それぞれ、自分に必要なパートを長く取るなどの調整を行うのだという。
「伊吹、柔軟に付き合ってくれないか」
準備運動を終えたところで、若利に声をかけられた。1年の一般組は若利の一挙手一投足が気になるようだったし、推薦組や持ち上がり組も若利には気を引かれていた。大エースらしい存在感だ。
「ん。腰、気になんの?」
「……やはり分かるか」
「気にしてんのは分かった。張ってる?」
「恐らくそうだと思う。見てもらってもいいか」
「分かった、じゃあうつ伏せになって」
1年にも関わらずため口であることに、2人のことを知らない1年がざわつく。全国に名が知れる若利に気安く喋っているのは確かに驚くだろう。それは他のメンバーから話がいくため放っておき、まずは床にうつ伏せになる若利の腰をぐっと押す。
中学のときに何度か会っていたが、会う度に体格は良くなっていた。今も、触れた腰の太さや体の厚み、鍛えられた背筋など、アスリートの体になっていくのがよく分かった。
まだ乾いたシャツだが、これもすぐに湿っていき、そのうち絞れるほどになるのだろう。
「うん、張ってるわ。練習量減ってた?」
「春休み期間に体育館の点検があったり、実家に帰ったりしていたからな」
「え、お前実家いたのかよ」
「お前はそのとき入寮していた」
「あぁ、そっか。腰張ってんのは運動量減ったからだな、マッサージは頻繁にやってんの?」
「いや、伊吹だけだ」
「そっ、じゃあ軽くにしとくぞ、緩みすぎると痛めっから。終わったら自主練なしで、アイシングとストレッチ」
「分かった」
軽く話してから、若利の体を跨いで張っている腰を解しにかかると、見ていた斉藤が感心したように「おお、」と呟く。
「上手いな、勉強してたのかい?」
「や、祖父が整体師だったんで習っただけっす。若利のお父さんも、バレーの日本代表時代に習ったマッサージ教えてくれたんで」
「ハイスペックだなぁ!」
「…まぁ、指示あればいつでもやるんで。でもプロじゃねぇから程々にってくらいっすよ」
あまり正面から褒められるのは慣れていない。周りから賞賛されても気にしないでいられるが、面と向かって言われるとどうしたらいいか分からなくなる。
伊吹に声をかけてくる者が少なかったからだ。不良扱いだったのだから当然である。
「可愛い気配がする…!」
「は?」
そして下で何やら言っている若利には、後ろから後頭部に軽く手刀を決めた。