連載: cuddle eagle struggle−自炊男子
翌日、さっそく授業が始まった。優秀な学校だけあって、スピードに容赦がない。すでに後ろの席で川西が絶望している気配がした。
他にも何人か呆然としているのは、スポーツ推薦組だろう。クラス分けでもすればいいのにとは思うが、そうなると体育祭や文化祭などの行事運営に支障が出る。
4つの授業を終えて、ようやく昼休みに入る。休み時間ごとに「やべえ」と呟いていた川西は昼休みになった途端に大きくため息をつき、そしておもむろに後ろから伊吹に抱き着いてきた。
川西の長い腕が体の前に回り、その筋肉質な重さが肩にかかる。
「あ?んだよ」
「柄わりぃ……つーかなにコレ、授業進むテンポなんなの?逆にバカなの?」
「俺だってここで上位10位取んなきゃなんねぇだから余裕ねぇぞ」
「クラス10位?」
「学年10位」
「えっっぐ」
10位以内になれなかったからと言ってすぐに学費が発生するわけではない。次年度から免除がなくなる仕組みだ。それに、10位というのも目安だ。相対的にそれくらいの成績になるというだけで、実際は各教科に必要な評価が決まっている。
「まぁいいや…とりあえず食堂いこ」
「ん」
2人は立ち上がり、校舎の食堂へ向かった。寮の食堂は寮生に限り無料で、朝と夜に営業している。寮生も昼は校舎の食堂を利用することになるが、当然有料だ。
さらに、食堂は全生徒が集まるため混み合う。
「うっわ、これ座れんのか…?」
食堂に着くと、人混みのすごさに立ち尽くす。1年が他にも困惑していた。満員の食堂はとても座れそうになかった。
「購買行くか駅前まで行くかだな」
「…とりあえず、食券だけ見ていいか?」
伊吹は食堂の物価を把握する必要があると考えていたため、川西とともに食券機の方へ歩いた。並ぶ長蛇の列から外れて、こっそり近くから食券機を観察する。
「…最安は唐揚げ丼390円、パスタは450円、定食の最安は530円、うどんとそばが250円……たけぇな」
「え、高いの?」
抜けたことを言う川西をじと目で睨む。ぎくりとして川西は黙った。
高校生向けの食堂にしては高い。金持ち学園らしい価格といったところか。もちろん、自宅通いの生徒は弁当を持たせてもらっている者もいるだろうが、大多数はこの価格でも通うらしい。
購買は普通の小売のそれであったため、安く済ませようと思ったら購買しかない。
「……いったん購買行くか」
「購買も混んでんだろーなー」
少しげんなりとしながら、2人は食堂を後にした。
川西の言うとおり、やはり購買も混んでおり、やっとの思いで菓子パンを買ったが、川西は足りなさそうだ。このあとの5、6時間目を終えてから部活まで持たないかもしれない。
教室に戻り、自席について伊吹は横向きに座る。隣に川西を視界に入れながらコッペパンの袋を開ける。
「伊吹〜、どうする?俺毎日あの食堂とか購買で勝てる気がしねぇよ」
「そうだな、クソ面倒臭えし」
ため息を何度もついて、「はぁ…ランチバック食べよ……」と呟く川西が鬱陶しいが、その言っていることには同意だ。
それに、食堂では財布が持たないし購買では体が持たない。
寮生の2人は親も頼れない。
「しゃあねえ、俺作るわ」
「は?マジで?お前料理できんの?」
「できるってだけで得意とかじゃねえし、別に大層なモンも作れねえ。それでも良ければお前の分も作ってやるけど?」
「すっげえ!うん、マジ頼む!伊吹ってなんでもできんのな!」
表情筋の乏しい川西にしては、明るく顔を輝かせている。食はそれだけ重要なのだ。
「弁当箱買わねえとなぁ。つかさ、それなら食材費は俺出すわ」
「別についでだし」
「だってさ、シングルの家のやつに弁当作らせて自分のしか払わねえとか、多分俺の親が黙ってねえよ。気兼ねなく食いてえから、払わせて」
真剣な顔で言った川西は、間違いなく育ちが良い。大事に育てられたのだろう。
そこまで言うのなら、と伊吹は承諾し、これで手間はかかるが金はかからないことになった。