連載: the other rather together−朝っぱらから
目覚ましや人の声に起こされるでもなく、単にふっと目が覚めた。人体の自然な働きによる目覚めは気分がいい。
しかし、視界に入った精悍な顔を認識した瞬間、呼吸が止まった。穏やかな寝息を立てる銀髪は至近距離にあり、しばらく何が起きたか分からなかった。
遅れて、昨日自分がこの家に越してきたことを思い出す。もう、伊吹の名字は宮なのだ。
落ち着いてし状況を確認してみると、どうやら伊吹は治に抱き込まれているようだった。治の左腕に首で乗っかっているような形で、枕を共有している。治の右腕は伊吹の背中をがっちりと抱き込んでいた。
昨晩、リビングで雑談しているときに、伊吹は治の上で寝落ちして、そのまま治が自身のベッドに運んだのだろう。伊吹は上の段だが、さすがに二段ベッドの上の段に人一人を持ち上げることはしなかったらしい。かといって自分が上に上がるわけでもなく、一緒に寝ることを選択するとは、改めて双子の距離感が謎だった。
それにしても、と伊吹は体を包む温もりにまた目を閉じてみる。恐らく時刻は相当早く、日の感じからしても朝5時前後だ。つい、朝練とランニングの癖でこんな時間に起きてしまった。
一度起きたら目が覚めるタイプの伊吹はもはや眠くはなく、二度寝は必要ない。しかし、エアコンの効いた部屋で治の温もりと匂いに包まれている現状が、なかなか落ち着いた。人とこんな距離になることが滅多にないからだ。
子供っぽい2人ではあるが、やはり年上だけあって、ふとしたときの包容力のようなものは感じられた。それが心地良かった。
つい、その感覚に任せて目の前の治の首筋あたりに顔を寄せると、突然、後頭部を撫でられた。思わず動きを止め、恐る恐る顔を離して治の顔を見遣る。
「自分、たまにホンマあざといな」
「……起きてたのかよ」
「おう、伊吹の寝顔見取ったらいきなり目ぇ覚ますから、寝たふりしとった。どないすっかなって思うてたらめっちゃ可愛いことしよるし」
「そういうの彼女に言ってやれよ、腕枕とかも」
「今おらんし〜?付き合うのめんどぃからワンナイでええかなっちゅうんもある」
「朝からゲスを極めてんじゃねえ」
「ゲスの極みおさむ」
「治以外侑じゃないの」
「どっちやねん」
朝にしてははっきりとした会話が途切れ、ふっ、と小さく笑う。治はかなり前から起きていたのだろう。
伊吹は切り替えるように伸びをして起き上がる。治もあくびを漏らしながら上体を起こした。
ベッドから出て立ち上がると、改めて時計を確認し、予想通り5時だと分かった。
「朝練とかロードワークとかは?」
「ん〜、夏は基本メニューに朝ロードワークあるから、早朝から部活やねん」
「あぁ、夏休みだから朝練も何もねえか」
ぼりぼりと脇腹をかく治。シャツの裾の隙間から、綺麗に割れた腹筋が見えた。なんだかむかついて、その腹筋に軽く拳を入れると、治は大して痛くもないのに「ぐへえ」と声を出した。
「なにすんねん」
「むかついた」
「ヤクザやんこわぁ……でも、俺も触り返してええんよな?」
すると治はおもむろに立ち上がると、こちらににじり寄ってきた。嫌な予感がして、伊吹はさっさと下へ行こうと踵を返すが、リーチの長い治はすぐに伊吹を後ろから抱き竦めた。
「うわ、」
「やられたらやり返す〜倍返しや〜」
治はそう言って、伊吹のシャツの中に手を差し込んだ来た。腹をするりと撫でられ、胸元まで無骨な指が迫る。ぞわぞわとしたものが背筋を駆け上がり、思わず声が漏れる。
「ひ、んっ、ちょ、マジなにして、」
「あー……」
治はいったん動きを止めると、いきなり腰を押し付けてきた。身長差があるため、治のそれが尾てい骨あたりに当たる。
「……なんか当たってんだけど」
「当ててんねんけど。しゃあないやん、朝の生理現象やもん」
「っざけんな、」
「おーいいつまで寝とんねん……」
ガチャ、と開いた扉から侑が姿を現す。伊吹が後ろから治に迫られているのを見た瞬間、侑は2人の間に割って入る。
「朝っぱらから何晒してくれとんねんドアホ!!!」
「空気読めや侑」
「熟読した結果や!!大丈夫か伊吹!?」
「も…マジお前ら……」
セクハラ双子にカチキレそうな伊吹は一発本気で入れようかと思ったが、もしかしたら2人なりに距離を詰めようとしている可能性が微粒子レベルで存在しているかもしれないため、踏みとどまる。息をゆっくり吐き出し、努めて冷静になった。
「だぁからなんで俺に発情してんだ」
「やってエロいから」
「今夜は俺と一緒に寝る〜?」
まぁ、そんな訳がなかった。
伊吹は2人に肩パンをかまし、痛みに声を上げずに蹲るのを放って階下に降りた。